【第8回】職場体験とSEL【後編】〜苦労して獲得した職場だからこその成果〜【マルチレベルアプローチ(MLA)実践8年間の記録】

みなさん、こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りしている連載ブログの8回目です。

前回は、「職場体験」の学習を、MLAの最終ゴールである「自己実現」に対してどのように位置付けたのかというお話をしました。
今回は、MLAの柱(手段)の一つであるSELを、どのように活用しどんな結果が得られたのかについて紹介していきます。

SEL(Social & Emotional Learning:社会性と情動の学習)を活用した丁寧な事前学習

SELは、「自己の捉え方と他者との関わり方を基礎とした、社会性(対人関係)に関するスキル、態度、価値観を身につける学習」と定義されています(社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方、小泉・山田、ミネルヴァ書房)。

SELの学習は、この定義に基づいて、社会性や情動面についてのポイントを学び、ロールプレイを通じて体験し、実践につなげていくという流れで授業を行います。
SELで他者との関わり方を学び、ピア・サポートや協同学習で実践練習をし、最終的に社会において他者と関わりながら自己実現に向かっていくというのが、MLAの目指すゴールというわけです。

職場体験の事前(事後)学習においても、このSELの考え方に基づいて以下の内容について授業を行いました。

・職場への電話のかけ方
・職場への訪問の仕方
・職場へのお礼状の書き方

上述の「社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方」という書籍の中には、SELの実践を進めていく上での具体的な指導案が掲載されています。
ただ今回の「職場体験」では、既存の指導案を参考にして、社会的スキルや情動面のポイントを子ども達に話し合わせながら学ばせ、実践に向けたスキルトレーニングとしてのロールプレイを盛り込んだオリジナルの指導案を作成しました。

予想以上に好評!子ども達を信じて期待することの大切さ

11月の職場訪問に向けて、1学期にSELの授業を行い、夏休みの課題として「就職活動」を課し、夏休み中から2学期にかけて子ども達が獲得してきた職場への確認やお願いを行ないました。

まず驚きだったのは、子ども達のほとんどが職場を獲得してきたことでした。
学校から紹介した職場を選んだ生徒や保護者の協力を得ていわゆる“縁故就職”を決めてきた生徒もいましたが、中には7回目の訪問でようやく体験の許可を得たという生徒もいました。

子ども達のポテンシャルの高さと信じて任せることの大切さを感じました。

さらに、2日間の体験を終えた後の各方面の反応も予想以上の好評価でした。
以下に少しだけですがコメント例を紹介しますね。

コメント例
・全体を通してよかったと思います。多くの事業者の方が、自主的に生徒たちが行動するところからのスタートに共感されていました。生徒たちの体験後の帰校してきた顔が、普段あまり見せない素晴らしい顔をしていたことが大成功の証だと思います。(教師)
・特に自分で事業所に連絡を取り、約束を取ってくるというシステムが素晴らしいと感じました。社会に対する突貫力とでも申しましょうか、大事な力を育てるものと思います。(職場)
・自ら希望された職場に生徒が直接連絡を入れ、面接・打ち合わせを行ったことで、生徒さん自身がより積極的に職場体験に参加されていたように思う。(職場)
・今までできないと思っていたことが、やればできるのだと気づかせてくれました。できないと私が勝手に思い込んでいただけなんですね。(保護者)
・職場選びから面接、体験することで、貴重な経験をすることができてよかったと思います。将来の夢に向かって、より現実的にこれからの進路を考えられる機会になりよかったと思います。(保護者)

もちろん、様々な厳しい指摘や実施上の課題があったことも事実です。

実施上の課題
・例年とは違い生徒さんに直接電話をさせて体験先を決めることから、面接・採用の手順を踏ませるという今年の趣旨について学校から充分な事情説明がなかったため、受け入れ側としては戸惑い、学校側が意図するような手続きを一部行っていない。例年通り、学校で取りまとめてもらう方が良いと思う。(職場)
・自主性重視の方針に変更していましたが、やっぱりある程度の体験施設の提示や体験施設との意思疎通は必要ではないかなと思います。全く学校と関わったことのない施設に1人で行くことになったときの安全性が低く少し危険だなと思いました。(保護者)

数は少ないもののこのような指摘もありました。
学校の意図が事業所に十分に理解してもらえていなかったり、様々なリスクに対する保護者の心配があったりしました。
確かにもっともなことですね。

ただ、これらの指摘は、事前の説明が不十分であったという課題であり、丁寧な説明を行うことで容易に解決できることだと思います。
逆に、2日間の体験活動では特に大きな問題はなく、前述のコメントにあるように、子ども達のポジティブな様子がたくさん見られました。

大人がリスクを背負って、子ども達の持っている力を信じて期待して任せることで、子ども達が本当に大切なことをたくさん学んでくれるのだと思います。

それにしても…、当時のことを思い出してこの記事を書いていて、ドキドキヒヤヒヤでほんとに大変だったな、よくやったよな、でもやってほんとによかったなとしみじみと感じました。