【第1回】MLAとの出会い【マルチレベルアプローチ(MLA)実践8年間の記録】

私は元大阪市の公立中学校の教員で、現在は広島大学大学院で栗原先生のゼミに所属し修行中の者です。

なぜ私が公立教員としての職を辞してまで(そう、やめちゃったんです!)栗原先生に弟子入りしたかというのは、これから連載で書かせていただく『マルチレベルアプローチ(MLA)実践、8年間の記録』を読んでいただけるとわかるかと思います。

というわけで、このAISES(学校教育開発研究所)のブログを通じて、私がMLAと出会い、訝りながらもやってみて、失敗や苦悩を重ねながら、子どもとともに成長していった過程をお届けしていきたいと思います。

AISESの会員のみなさんや、ちょっと通りがかって今このブログを読んでいる方にも、“今、学校教育で何が求められているのか?”という問いに大きなヒントが得られるものになると思いますので(自らハードルを上げてますが…)、ぜひ最後までお付き合いください。

これまでの生徒指導が通用しなくなった…

私がマルチレベルアプローチ(MLA)に出会ったのは2013年のことです。

当時、ある高校のある部活のキャプテンが、顧問の先生の体罰を苦に自ら命を断つという悲しい事件がありました。

もちろん体罰が許されないことは当時も今も同じなのですが、この事件を機に、学校内外で「体罰厳禁!」が強く言われることになりました。その結果、学校現場ではどのようなことが起こったでしょう??

特に中学校、高校で、力で抑える指導ができなくなりました。実際、子ども達が「やれるもんならやってみろ!」といった挑発的な発言をする学校も多くありました。

こうした状況下で、当時私が勤めていた学校の校長先生が、“生徒指導を考え直さなければならない”と考え、校内研修を行うべく生徒指導に関する話をしてくれる大学の先生を探したわけです。

そうして辿り着いたのが栗原先生でした。ただ、栗原先生とはなかなか条件が整わず、そのとき研修に来てくれたのが栗原先生のお弟子さんの山﨑茜先生(現広島大学教職大学院)でした。

この時の研修で話されたことが、生徒指導や教育相談の話、そしてマルチレベルアプローチ(MLA)の話だったのです。

これが、私のMLAとの出会いです。

MLAの構造

日本版の包括的生徒指導モデルであるMLAは次の4本の柱からなります。

  • 個人の成長に焦点を当てたSEL(Social and Emotional Learning:対人関係能力育成)
  • PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports:ポジティブな行動介入と支援)
  • 集団の成長に焦点を当てた協同学習
  • ピア・サポート

 

4つの教育プログラムを通じて、子ども達を“つながり”の力で育てること、そうして成長した集団が個を育てるシステムを作ること、それがMLA理論のエッセンスです。

しかし、当時の私は到底そのことを理解できるはずもなく、むしろ昔ながらの“厳しい生徒指導”で15年の教員生活を積み上げてきた私には、“こんな生ぬるいことをやっていて生徒指導ができるはずがない!”と受け止めていました。

1年目の4回の研修

この年の研修は4回行われました。

1回目は、学校適応感尺度(アセス)

学校教育において適切な指導、支援を進めるためには、まずは的確なアセスメントが必要です。

アセスメントにより子ども達のニーズとリソースを把握し、それをもとに目標設定を行い、計画的に教育活動を考え実行し、さらにその結果をアセスメントし、次の実践につなげていくことが重要なのです。

今でこそこのように考え、アセスメントの必要性を痛感していますが、当時の私は、正直この質問紙によってデータを取り分析により得られる「学校適応感」について懐疑的でした。

“そんなものは子ども達を毎日見ていればわかる!!”…そんなふうに思っていました。

みなさんはどう思いますか?

教師による観察は、アセスメント(子ども理解)の重要なツールの一つです。

しかし、社会の変化、環境の変化、子どもの変化など様々な変化の中で、経験だけでは読み取れないものが増えていることも事実ではないでしょうか?

いろいろな側面から子どもを見立て理解しようとすることが重要なのだと思います。

2回目は、協同学習とSEL

その後私の授業の基本スタイルとなった協同学習ですが、当然のことながら、最初からうまくいったわけではありません。詳しくは次回の記事でお伝えすることにします(ちゃっかり次回予告!)。

3回目は、PBIS

1次的生徒指導として、子ども達全体に対して望ましい考え方や行動を身につけさせるのがPBISです。これも詳しくは今後の記事にて!

4回目は、ゼロトレと修復的正義

当時、大阪においてにわかに取り上げられたのが「ゼロトレ」でした。

「ゼロトレ」とは、子ども達の問題行動をそのレベルによって分類し、レベルに応じて別室指導などの指導的な措置を決定していくというものです。

問題行動に対するこうした指導は必要です。しかしながらそこで行われる指導の中身が肝心だと思います。

修復的正義に基づいた指導は、単なる処分ではなく、その問題行動によって壊したコミュニティを回復させるために何ができるかを子どもに考えさせ、実行させることを目指すものです。

ダメなことをしたら反省してごめんなさい…。それが当たり前だと思っていた私にとって、これは大きな気づきになりました。

おわりに

第1回の記事はここまでです。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

当時教員15年目だった私にとって、MLAとの出会いは衝撃であり、しかし懐疑的なものでした。

次回以降は、そんな私がこのような記事を書くに至るまでの悪戦苦闘、そして喜びと感動の日々を綴っていきます。

ぜひ、今後の記事にもご期待ください☆彡