【掲載記事】学校と地域社会の再生―総社市の事例を通じてー

「学校と家庭と地域、自治体が協力して教育に取り組むことが重要」
こんなことがよく言われておりますし、私も同感です。

とはいえ、

・教員として、どうやって家庭や地域、自治体と連携していけばよいのか?
・地域全体で、不登校やいじめなどの問題に対応するには、何から取り組めばよいのか?

と考えている方も多いと思います。

そこでこの記事ではそんな学校と地域の連携のお悩みを、
長年、この問題に取り組んできた者として助言できればなと。

今回も、一般社団法人平和政策研究所の許可をいただき、「月刊『EN-ICHI FORUM』」に掲載した内容をお届けいたします。

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※(一般社団法人平和政策研究所のHPに移動します。)

一人でも多くの方が、この記事を読んで、行動いただけたら幸いです。

AISESでは虐待・貧困・いじめや不登校などの問題に取り組んでいます。

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学校は地域実態を反映

教育はグローバルな視点から創造していくことが大事だが、同時に、ドメスティックな視点も重要である。
なぜなら学校は地域実態を色濃く反映しており、地域実態を離れた学校教育は子供のニーズを満たすことができないし、地域の学校を卒業した子供は、いずれ地域を担う大人となるからである。
本稿では、こうした視点に立ち、私が教育委員会(以下、委員会)と連携して取り組んできた岡山県総社市のケースをご紹介する。

1994年、総社市で、ある中学生がいじめを示唆するメモを残し自殺を図った。
「二度とこのようなことを繰り返さないでほしい。現在いじめを受けている子供を救ってほしい。」というご両親の訴えを真摯に受け止め、以来、総社市は、総力を挙げていじめの未然防止に取り組んだ。
いじめの芽を早期に摘み取るための徹底した指導が行われ、学校内の暴力行為やいじめは大きく減少した。
しかし、一方で学校での居場所を失った子供達は、地域で不良行為を行うようになった。
また、不登校も深刻だったため、市は独自予算でスクールカウンセラーを増員するなど、毎年20を超える不登校対策事業を行っていた。
しかし、その発生率は国の発生率を大きく超える状況が続いた。こうした状況下の2010年、私は総社市と関わるようになった。

成功した3つの要因

多くの場合、学校の状況を分析(R=リサーチ)し、計画する(P=プラン)のは委員会や学校である。
その計画に沿って、教師が実行(D=ドゥ)する実践内容が決まり、研修が行われることもある。その実践や研修の効果を評価(C=チェック)し、改善(A=アクション)するのも、委員会や学校になる。
大学教員が関わるのは、Dに関連する研修の一部を依頼された枠で実施する程度で、R、P、C、Aにはほとんどタッチしないのが実態だろう。
私自身がそうであった。
ただ、私自身は、こうした限定的な関わりで学校改革が成功するという感覚がまったく持てなかった。
そこで総社市では、私自身が、R-PDCAのすべてのプロセスに関わることを承諾していただくことを、市に関わる条件とした。
総社市の取組が成功した最大の要因は、R-PDCAの全プロセスを委員会と私が一緒に見直したこと、イギリスのWhole School Approach(地域の全リソースを学校教育に活用するアプローチ)からヒントを得て、教育を地域全体の取組として位置づけなおしたこと、アメリカの包括的プログラムからヒントを得て、マルチレベルアプローチという全人的成長を目指すプログラムを導入したことの3点にあると私は考えている。
市長や教育長の理解と協力も大きかった。ベクトルがそろったということである。

6つのゴールを設定

関与することが決まった当初、私は関連データをすべて見せてもらい、当時の藤井課長と共にエビデンスベースの現状分析とゴール設定を行った。おおむね6つのゴールを設定したが、そのうち地域に関わる方針は以下の3つであった。

1)この町の子供はいずれこの町の大人になる。だから、幼児と児童、児童と生徒、生徒と大人という縦の繋がりをつくり、情緒交流を活性化する。それはこの町への愛着を深め、未来のこの町の担い手を育てることになる。

2)学校の方針をコミュニティのすべての人たちに知ってもらう必要がある。したがって、学校の活動は、地域の掲示板、商店街での掲示、回覧板等でどんどん発信する。

3)この町の学校教育は、教師だけではなく、この町の人たちと共に作るべきである。したがって教育の方向性は、この町の子供に関わるすべての人たちによって決めるべきである。

こうした方針の下、私は、保育所から中学校までの保護者約8,000人にアンケートを行い、保護者や商工会議所、警察署、主任児童委員、有識者等で構成される委員会で検討して、「この町の子供をどんな子供に育てるのか」という内容を9つに絞り込んでもらった。
教育のゴールを子供に関わるすべての人たちと共有したのである。

総社市の改革はこうしてスタートした。その後は毎年データ分析を行いながら、リーダーの100時間研修、学会派遣、体系的な“誰もが行くたくなる学校作り”研修、アセスメントツール“アセス”の定期実施、総括と展望を共有する年度末研修、委員会と現場をつなぐ人材を育てる推進教員制度、実践プログラムの推進役を担うシニアリーダー制度と講師としての登用、校内リーダーによる新任転入教員研修システム、指導主事の研修、各校の実践の深化と共有化を進める公開型サテライト研修、地域毎の保幼小中連携の推進など、多くのプランやシステムを委員会と共に考え、実現した。

現れた成果

その成果は、総社市で育った子供の不登校発生率が全国の4分の1、不良行為等の95%減、学力が岡山県でトップ、ほぼ10年連続の学校満足感の改善、地域からの苦情の大幅減といった形で現れた。

2018年7月、総社市は西日本豪雨災害にみまわれた。
交通網は寸断され土砂で家々が埋まり、被災した子供も多い中、総社市の高校生約2000人のうち、1000人以上がボランティアに立ち上がった。
豪雨災害という地域の課題に、地域を愛する教育と全人的教育の中で育った子供達が協力して立ち向かい、解決していったのである。

地域と子供の実態を分析し、将来その地域を支える人材像を明確にし、その育成を可能にする教育を設計し、その目指す教育を地域と共有し、その営みを地域のリソースを繋ぎながら実践していく。そうした実践の先に、地域に支えられ、地域を支える学校が生まれるのではないかと、私は思う。

AISESが行った岡山県総社市への取り組みはこちら

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