第11回 PBISと個別支援−Check In Check Outの活用−【マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録】

前回の記事から少し間が空いてしまいました。すみません…。

広島大学大学院での学びの日々は本当に充実していて楽しいのですが,なんやかんやとやることがたくさんあって大忙し!で,ついついブログを書くのが後回しになってしまいました。

しかし,仕事を辞めてまで飛び込んだこの世界なので,何が何でもモノにして(特に,“師匠”栗原慎二のすべてを盗んで)やる覚悟です!子ども達の明るい未来のために☆彡

さてさて本題に移ります。

今回は,前回第10回の続きになります(まだ前回の記事を読んでいない方はぜひ先にご一読を)。

発達に課題があり(ASDの診断),衝動的な暴言・暴力を抑えられないAくんをどないかしてやろうと,学年で個別のケース会議(事例検討会)を実施しました。

 

実際の支援につなげる「事例検討会」

学年会の最後に“情報交換”として,各クラスの担任の先生から気になる子の状況を説明して学年で共有する場がありますよね。

ただ,この“情報交換”ってどれだけ実際の子どもの支援につながっていますか?

“これって家庭の問題やんなぁ”

“とにかく言い続けるしかないよね”

“特性があるから仕方ないよなぁ”

そして最終的に…

 

“なかなか難しいよなぁ”

 

…ってなってませんか??

これじゃあ全然ダメですよね。せっかく学年のスタッフみんなで1人ひとりの子どもについて検討していく場なのに,家庭や本人の特性のせいにして,最終的に“むずかしいよね”で終わっちゃもったいない。

Aくんについてもそうでした。みんなでAくんの暴力について話し合い,「とにかく言い続けよう」「今度暴力があったら保護者を呼んで話をしよう」「直らないようなら別室で反省させるしかないな」みたいな…。

これは一度,きちんとした事例検討会を開いて,具体的な今後の支援策を立てなければなと思いました。

MLAにおける3次的生徒指導の対象となるAくんのようなケースでは,担任だけでなく,学年の他のメンバー・学年主任・生徒指導担当・教育相談担当・特別支援担当・スクールカウンセラーなどがチームとなって支援することが大切です。

チーム支援を進めるためにまず行うべきなのが「事例検討会」です。事例検討会では,上記のようなメンバーが参加して,以下のような手順で話し合いを進めます。

  1. 適切なアセスメント(子ども理解)
  2. ニーズとリソースの把握
  3. 支援目標“ゴール”の設定
  4. 支援策(誰が何を行うか)の決

 

Aくんの事例検討会

当時一担任だった私は,Aくんについての事例検討会をしようと学年主任に提案し,私がファシリテートする形で行いました。

まず,①適切なアセスメントを行うために,担任の先生からAくんの様子を話してもらい,次に学年の他の先生からも授業での様子や部活,委員会での様子を説明してもらいました。

Aくんは,普段は明るくて友達とも楽しそうに過ごしていて,部活は大好きだし委員会などの目立つ仕事も得意でした。ただ,やはり発達の課題のために,想定外の事態には混乱してしまい怒りをコントロールできずに暴言や暴力が出てしまうというのが,学年スタッフの共通した認識でした。

こうした先生達の観察に加えて.学校適応感尺度(アセス)の結果も参考にして,Aくんの理解を深めていきました。

これがAくんのアセスの結果です。

これを見ると,学習には少し不満があり,ややスキル不足を感じているようですが,それ以外は普通よりかなりいい方だということがわかります。この結果をどう解釈しますか?

ASDの子どもは,感情理解が難しく他者の中の自己を客観的にとらえるのが難しいところがあって,このような“はなまる”的な結果になることがよくあります。ただそれでもAくんの場合,上記のような行動面の課題がありながらも仲間や先生とはうまくやれているという実感はありそうだなという感じがします。

つまり,普段は上手くいっているが時々衝動的なイライラを抑えきれないのがAくんの課題(ニーズ)で,仲間や先生の存在はAくんの助けになっているし,委員会などの役割はAくんの自己肯定感を高める要素になっているというのがAくんの強み(リソース)だと言えそうです②ニーズとリソースの把握

事例検討会では,Aくんの理解が深まったところで,③支援の目標(ゴール)である「暴言・暴力をなくす」に向けた具体的な支援策を,参加している先生を2グループに分けて考えました。

この時おもしろかったのが,2グループそれぞれのメンバーが生徒指導担当とそれ以外のような別れ方をして,前者のグループは「保護者の呼び出し」や「別室指導」などのいわゆる“厳しい指導”の案を出したのに対して,後者のグループは,「自己肯定感を高めるために役割を与える」とか「しっかりと話し合ってAくんの思いを聴く」といった意見が多かったことです。

私としては,当然後者のグループのアイデアを採用する方向で話を進めました。

 

Check In Check Outの活用

PBIS(Positive Behavioral Interventions & Supports)の中に個別支援の方略として,Check In Check Out(CICO)というものがあります。

PBISやCICOについての詳細は書籍を参考にしてください。↓↓↓

CICOについて簡単に説明すると,ホテルのチェックイン,チェックアウトのように,朝学校に来たら先生のところに行って(チェックイン)今日一日の過ごし方を話し合い,帰りにも先生のところに立ち寄り(チェックアウト)一日のふりかえりを行うというものです。

Aくんに対する④具体的な支援策として,このCICOを活用することにしました。支援策の決定で重要なのが,“誰が”“何を”“いつ”“どこで”“どのように行うのか“を具体的に決めることです。

【Aくんに対する具体的な支援策】

  • 特別支援担当のB先生がCICOの対応を担当
  • 毎日,登校時と下校前にB先生のところに立ち寄りCICOカードの受け渡しを行う
  • 教育相談担当のC先生が月に一回30分程度の面接を行う
  • 面接はブリーフセラピーの理論に基づき実施
  • 期間は事例検討会以降卒業までの約半年間

ブリーフセラピーについて詳しくはこちら↓↓↓

Aくんのその後…

結果から言うと,この時のAくんに対する支援は大成功でした。

毎日のCICOは続けられるか心配もありましたが,元々Aくんの先生への信頼感が高かったことと,担当した特別支援学級担任の先生の丁寧な頑張りのおかげで,約半年間毎日続けることができました。

保護者のコメントも予想以上に丁寧に記入していただきました。普段困ったことや問題行動の報告が多いのに対して,CICOでは基本的にポジティブに関わることができるので,保護者の方も積極的に取り組んでくれたんだと思います。

毎月の面談にも欠かさず参加してくれました。毎回,プラス1点の目標を決めて次の回にそのふりかえりを行い,上手くいったこともダメだったことも正直に語ってくれ,AくんとC先生が一体となって問題解決に向かうことができました。

こうしてAくんは卒業前の半年間を暴力・暴言をほとんど見せることなく過ごすことができ,“自分もやればできる”と言う自己効力感を高めることができました。

 

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今回のお話はここまでです。

難しい子どもも,適切なアセスメント(子ども理解)に基づき,支援のための仮説を立て,ゴールを見据えて具体的な支援策を組み立てることでしっかり支えることができます。

だれ一人取り残さず,その成長を支援していきましょう!子ども達の明るい未来のために☆彡

※Aくんの事例は本人の特定ができないように一部を変えています。