【第2回】とりあえずやってみる-協同学習にチャレンジ【マルチレベルアプローチ(MLA)実践8年間の記録】

初めての協同学習。試行錯誤を重ねながらの実践の様子をご紹介します。

みなさん、こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りする連載ブログの2回目です。
今回は協同学習の取り組みについての話です。

学びの実践

8年前,広島大学の山﨑茜先生を講師に迎えての校内研修で,初めてMLAに出会い,教育相談やアセスメント,協同学習,SEL(Social & Emotional Learning:社会性と情動の学習),ピア・サポート,PBIS(Positive Behavioral Interventions & Supports:ポジティブな行動介入と支援)など,今まで全く知らなかったことばかりを学ばせてもらいました。

学び始めた当初から,“眼からうろこの学びだ!”,“これからはこの学びを活かして教育に取り組んでいこう!”と思えたかというと,残念ながら全くそんなことはありませんでした。

初任から15年目を迎えていた私は,新任当時,金髪,茶髪,タバコに暴力などへの対応に苦しみ,笑顔を封印し,空手教室に通い,力で負けない力で抑え込む指導を身につけ,なんとか教師として“やれる”ようになったところでした。

そんな私に,受容と共感を大切に,仲間どうしの支え合いを通じて集団を育てるなどと言われても,“そんなことをしていたら舐められる”,“生徒が好き勝手して収集がつかなくなる”という不安と心配しかありませんでした。

ただ,そんな反感以上に自分の中に湧いてきた気持ちは,“このまま文句だけ言ってやらないのは,それはそれで負けなのかもしれない”というものでした。

“文句を言うならやってからにしよう”と思ったのです。

協同学習とは

■協同学習とは■協同学習が成立するための5要件■協同学習と協働学習の違い
複数の学習者が共通の目標に向かって協力し、対話や協力によってお互いの学びを深めていく学習方法。
メンバー同士が協力し、お互いの学びに責任を持ち、学習を改善し続ける。
そうすることで、学力だけでなく 社会性・思考力・協働力 など幅広い力が育てられる。
※「協同学習とは何か?~学習成立のための5要件~」金山健一研究室
①相互協力関係
お互いが助け合わないと成功できない関係づくり。

②対面的ー積極的相互作用
積極的な対話・関わり。顔を合わせて話し合いながら学ぶこと。

③個人の責任
それぞれが役割を持ち、サボれない仕組みがあること。

④対人機能の適切な奨励・訓練・使用
協力に必要なスキルを教え、使うように励ますこと

⑤グループの改善手続き
どうすれば自分たちの取り組みがもっと良くなるか、そのためにグループでの活動をふり返る

「協同学習」は同質的な役割を担って効率的に課題に取り組む学習である一方、「協働学習」は異質な他者と対等な立場で協力して共通の目標を達成することを目指す学習。

協同学習(Cooperative Learning)
特徴:役割分担が明確で、教師の設計が強い学習形態

協働学習(Collaborative Learning)
特徴:役割を固定せず、共に考え合う“協働的創造”に重点

◆ 初めての協同学習。やってみたら…

いろいろな理論や実践方法を学んだ中で,自分の立場ですぐにできそうなのが協同学習でした。

協同学習は,グループやペアによる学び合いを通じて,学びに対する深い理解とともに,仲間との相互作用による「課題解決思考集団」の育成という,学習面と集団育成の面を同時に向上させようとする学習方略です。

「単にグループで学ばせることが協同学習ではない。」とはいうけれど,その違いはよくわからず,私がひとまずやってみたのが,6人組の生活班で学ばせるというもので,しかも授業の始まりから終わりまでグループで机を寄せた状態で,というものでした。

その結果は…

子ども達は楽しそうにはしていますが,好き勝手にしゃべっている生徒もいたり,逆に全然しゃべらない生徒がいたりと,本来期待される協同学習の効果が得られているとは言い難い状況でした。

◆ 負けるわけにはいかない…。よし!勉強しよう!!

協同学習(もどき)を始めてからの研修で,講師の山崎茜先生に,「協同学習をやり始めました。ひとまず6人組でグループを組んで授業をしていますが,なかなかうまくいきません。」と報告したことがありました。

山崎先生は,「ひとまずやってみることが大事ですね。初めはなかなかうまくいかなものです。」という感じの非常に寛容な返答をしてくれました。

しかし私としては,山崎先生のその言葉が逆に,“まだまだですね。これからに期待します”というように受け取られ, “明らかに何かが足りない。それを自分で見つけなければ…。このままできないままじゃ負けや!”と,負けず嫌いの性質が湧き起こってきました。

◆ 本を読んで学び,マイナーチェンジを繰り返しながら

日本の協同学習研究の第一人者に杉江修二先生(中京大学)がいます。もっと協同学習を理解し子ども達にその効果を提供したいと考えた私は,杉江先生の書かれた『協同学習入門−基本の理解と51の工夫−』という本を購入しました。

この本を読んで私が授業に取り入れたことは,以下のようなことでした。

  • 協同学習の基本的構成要素を意識する
【協同学習の基本的構成要素】
①互恵的な協力関係・・・自分の頑張りが仲間のためになり,仲間の頑張りが自分のためになる②個人の責任性・・・1人1役(例えば,司会や発表など)。“タダ乗り”をさせない

③相互作用の促進・・・説明や質問,励ましや称賛などのやりとり

④社会的スキル・・・声のかけ方,説明の仕方,話の聞き方など

⑤グループの改善手続き・・・学習内容とグループでの活動の両面をふりかえる

  • 協同場面は,ペアか3〜4人のグループ(6人は多すぎる)
  • 授業の流れは,個人思考→グループ(ペア)思考→全体思考→ふりかえり
  • 役割分担を決める(司会,発表,質問,計時など)
  • 司会のセリフを黒板に書く(スキル使用のサポート)
  • グループメンバーを指定する(成績や男女が均等に混ざるようにする)
  • 随時,説明や聞き方のスキルトレーニングをする
  • ふりかえりシートを用いる(ふりかえりの話し合いをする)

◆ もっともっと学びたい!

今は一応,「協同学習に取り組んでいる」と言っていいかなと思える授業ができるようになったと思います。でも今もまだまだ研究中です。悩むこともたくさんあります。

ただ,こうして様々な工夫をしながらやってきて,今はっきり言えることがあります。それは…

子ども達の様子が生き生きと学ぶ姿に変わったことで,授業者である私自身も楽しくなり,それがもっともっと学ぶことへのモチベーションになっているということです。

このブログを読んでいただいているみなさんは,きっと子ども達のために教育をより良くしたいと考えている熱心な先生達だと思います。

新しいことを始めるのは負担もあります。
失敗したらどうしようという不安もあります。

でもそれが,子ども達の明るい未来につながっていると思えば,負担も不安も苦ではありません。

私たちは,「学び続ける教員」としての仲間です。ぜひ,ともに学び合っていきましょう☆彡
(ブログ記事のシェアなどリアクションいただけると幸いです)

(※本記事は2021年7月14日に執筆・公開したものを当時のままご案内しております。)



『AISES 学校教育開発研究所』は子どもと学校の支援、教育に携わる人材育成を行うことを目的とした団体です。eラーニングや直接研修などを通して、発達障害支援を含む学校教育現場の様々な課題に対応する理論・実践例・教材・教具等を提供します。

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