みなさん,こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りしている連載ブログの10回目です。
MLAの2次的生徒指導では,仲間同士の支え合いで互いに成長していけるように集団にアプローチします。前回の,文化祭の作品制作にピア・サポートを取り入れた取り組みがまさにそれです。
班長を中心に,互いに助け合い協力し合って一つの作品を完成させる。その過程で,子ども達は仲間をいかにサポートすればいいか?いかにサポートを受ければいいかを学んでいくのです。教師として,そういう子ども達の姿を見ると,目を細めて胸が熱くなっちゃったりしますよね。
しかしまぁ,みんながみんなその活動に乗ってうまくやれたらいいのですが,中には集団の中ではうまくやれない子どももいますよね。そんな子を置き去りしないためにどうしたらいいのでしょう??
- こんな子どもがいたらどうする??
こんな生徒がいました。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けて,特別支援学級に在籍しているAくん。普段は,通常学級で授業を受け,ほとんど全ての活動を通常学級の仲間と楽しく過ごしていました。委員や係の仕事が好きで選挙管理委員を務めたこともありました。
しかし,ちょっとしたきっかけで自分の思いとは違う事態が起こると,衝動的に湧き上がる怒りを抑えきれずに,仲間や先生に暴言や暴力を振るってしまうことがありました。
中学1年生の頃は,穏やかに諭すタイプの女性の先生で,落ち着いて話をするとちゃんと話を聞いて反省するのですが,同様のトラブルはなかなか減りませんでした。
2年生の担任は,生徒指導担当の男性の先生で,暴力行為などには厳しい対処を行なったので,ひとまず暴力はなくなりました。ただ,3年生になってまた女性の先生が担任となり,暴力や暴言が再開してしまいました…。
Aくんの暴力を減らすためにどうすればいいでしょう?
- 予防・開発的な生徒指導・教育相談としてのマルチレベルアプローチ
子どもを取り巻く環境は非常に厳しい状況であり,子どもが抱える問題は深刻です。Aくんのような問題行動を起こしてしまう子どもは普通にたくさんいます。そしてその背景も様々です。
このような状況において,問題に対する事後対応的なやり方ではとてもじゃありませんが追いつきません!(ほんま,事件ってのは同時多発で起こるんですよねぇ…)先生達は,次々と起こる問題や子ども・保護者からの訴えへの対応に追われ,どんどん疲弊していきます。そうして,バーンアウトに陥ることも少なくありません。(思えば,私も新任から2年間は身の危険を感じながら必死で闘ってたなぁ…)
川下で溺れる子どもを救うより,川上で泳ぎ方を教える!
日本版包括的生徒指導プログラムであるマルチレベルアプローチ(MLA)は,予防・開発的な生徒指導・教育相談プログラムです。MLAのねらいは以下の通りです。
- 個人でできる子どもを育てる
- 所属する集団のために貢献できる個人を育てる
- 仲間との支えあいで互いに成長できる集団を育てる
MLAは,子どもが問題に陥らないように“やり方”を教えます。困難を一人で乗り越える力と,仲間と支え合いながら乗り越える力を,個人と集団の両方にアプローチして身につけさせます。そうして,予防・開発的に子ども達にアプローチしていくのです。
まずは,こうした予防・開発的な視点で取り組み,問題状態に陥る子どもを減らすことが大切です。
- 適切な支援のために欠かせない適切なアセスメント(子ども理解)
MLAの理論に基づいた学校教育に取り組むことで,上記のような問題状況はかなり減少します。
ただ,それでも一人ではもちろん仲間のサポートを受けてもなかなかうまくやれない子どもがいます。そんな子どもを大人が集中的に支えるのが,MLAにおける3次的生徒指導ということになります。
教師や専門家による集中的な個別支援のために重要なのが,子どもの問題行動の背景や困り感(ニーズ),またはできることや強み(リソース)を知ることです。つまり,適切なアセスメント(子ども理解)があってこそ,適切な支援が始められるのです。(そんなこと考えずにとにかくみんなと同じようにさせようとしてしっぺ返しをくらってよなぁ…。苦しいのは自分だけじゃなく子どももしんどかったんやなぁ…)
子どものニーズとリソースを知ること,つまり“アセスメント(子ども理解)を可能にするツールの一つに,学校適応感尺度(アセス)があります。
- 学校適応感尺度(アセス)〜子どものニーズを知る〜
学校適応感尺度(アセス)は,34項目の質問に5段階で答えさせることによって,以下の6つの側面から子どもの学校適応感を測ります。
- 生活満足感:生活全般に対する適応感
- 教師サポート:担任の先生からのサポートに対する満足感
- 友人サポート:友人からのサポートに対する満足感
- 向社会スキル:社会的スキルを持っていて使える感覚
- 非侵害的関係:周りから嫌な思いをさせられていない感覚
- 学習的適応:学習がうまくいっている感覚
学校適応感と学校適応は違います。学校適応は,客観的に見てうまくいっている状態。学校適応感は,子ども自身がうまくいっていると感じる主観的な程度を表します。
学校適応感尺度(アセス)を使って,子ども自身の感じている学校適応の程度を知ることで,個に対しても集団に対しても,どのような指導や支援が必要かを知ることができるのです。
💡アセスに関する詳しい内容は,AISESの講義動画や研修会を参考にしてください。
https://aises.info/category/attention/
- 事例研修〜子どものニーズと支援策を学年で共通理解する〜
さて,Aくんの話にもどりましょう。
Aくんの暴言や暴力は学校生活に適応できているとは言えません。かと言って表面上適応させようとしてもうまくいきませんでした。(優しくしても厳しく叱っても本当の意味で成長していなかったのです)無理矢理適応させようとするのではなく,まずは心理的な発達や成長を支援することが先決なのです。
そして,難しい子どもの個別支援でもう一つ重要なのが,チーム支援です。
Aくんに関わる学年の教師や特別支援担当,場合によってはスクールカウンセラーや外部の福祉機関など,いろいろな立場の人たちが,Aくんについて共通理解し共通の目標を持って支援に取り組むことが大切なんです。
そのために,私が学年の先生達に提案して行なったのが,Aくんに関するケース会議(事例検討会)でした。
Aくんに関しては,この事例検討会とその後のチーム支援がとてもうまくいきました!
Aくんのアセスの結果や事例検討会の様子,そこで出された解決策,そしてその後の支援をどのように進めたかは,次回のブログでお伝えします!
集団の中でうまくやれない子どもを抱えて困っている先生は,ぜひお楽しみに☆彡
(※Aくんの事例は,個人の特定ができないように,一部変更を加えてあります。)