みなさん,こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りしている連載ブログの9回目です。
今回も,MLAを活用した具体的な実践を紹介していきます。
MLAでは,生徒指導・教育相談を1次的生徒指導,2次的生徒指導,3次的生徒指導の3層のモデルで捉えています(図)。
1次的生徒指導では,すべての子ども達を対象に,自分の力で乗り越え成長する力を身につけさせます。そのための具体的な方略として、主にPBIS(Positive Behavioral Interventions & Supports)やSEL(Social & Emotional Learning)を活用します。
2次的生徒指導では,やはりすべての子どもを対象に,仲間どうしでつながり,支えあって乗り越え成長する集団を育てます。そのための具体的な方略として,主に協同学習やピア・サポートを活用します。
3次的生徒指導では,大人が集中的に支える必要のある子どもを対象に,教師や専門家がチームで個別支援を行います。つまり,ここで対象となる子どもは,1次,2次では難しい一部(全体の10%〜20%はいるのではと考えます)への集中的な支援ということになります。
もちろん,ピア・サポートのトレーニングが1次支援に役立つこともあれば,PBISの理論に基づいて個別支援を行うこともあるので,あくまでも大きな枠として捉えること、つまり,1次から3次までを包括的に捉えて指導や支援を行うことが重要ということになりますね。
さてさて,かたい話はこれぐらいにして,早速,実践例の話に移りましょう♪
今回は,“つながりの力”を育成することに効果的なピア・サポートを,文化祭の作品制作に活用した実践を紹介します。
☆ とまどう班長「え〜!めっちゃめんどくさいやん」
そう!このモザイク壁画の取り組みは,かなりめんどくさいんです!!
簡単に制作方法を説明すると…
① 写真をモザイク化(8色に減色)
② 写真のドットを文字で表した設計図をプリント
③ 数枚の設計図を班ごとに配布(班ごとにノルマ)
④ 設計図通りに1cm四方の方眼紙に色を塗る(絵の具!)
⑤ 色を塗った方眼紙を貼り合わせる
⑥ 展示用にひもなどを取り付けて完成
この制作方法を,班長だけを集めた班長会議で,班長にだけ伝達します(もはや,担任の先生達もいまいちよくわかっていない状態!)。
班長は,学級にもどり,班の仲間に自分の言葉で伝えます。
というわけで,「え〜!めっちゃめんどくさいやん」というセリフは,班長会議では班長自らが発し,そして班長は,その同じセリフを,今度は班の仲間から聞くことになるのです。
☆ サボる仲間になんていう??
制作活動は,もちろん問題もトラブルもなく進むわけではありません。
「先生,〇〇がちゃんとやってくれへん」
「先生,△△が間違えたんやけど!」
こんなことを子どもが言ってきたらどうしますか?
もちろん何もやってあげません(よほど取り返しがつかないミスや危険がある場合は別として…)。
「班長や班の仲間に相談して,自分たちでなんとかしなさい」と言えばいいのです。
とかく,教師も親も子ども達を取り巻く大人達は,やってあげすぎます。もはやサポート(支援)ではなくレスキュー(救援)なんですね。それでは,子ども達の中に大切なものは育ちません。
教師は,班長や他の子ども達に“やり方”を教えます。
- 説明の仕方
- 指示の出し方
- 困っている人への声のかけ方
- 対立の解消の仕方
これらを学ばせるのが,ピア・サポート活動なのです。
☆ ピア・サポート活動で身につくもの
ピア・サポート活動では,サポーターである班長にやり方を教え練習させ,班長は,実践を通じて,始めは苦労しながらもやり方を身につけ,次第に自己理解や他者理解,自己有用感などを高めていきます。
サポートを受ける側の班員も,班長の頑張りに応えようとするうちに,所属感や仲間意識を身につけていきます。
子ども達を取り巻く環境は厳しく,どんどん変化しています。それゆえ,いじめや不登校の問題はますます広がっています。そんな中で,子ども達の成長を支援し,学校や社会に適応させていくこと,そしてこれからの新しい時代に生きる力を身につけさせることができるのが,マルチレベルアプローチです。
MLAでは,ピア・サポートの他にも,PBISやSEL,協同学習を通じて,自分たちでできる力を育て,仲間と支え合う集団を育成していきます。
そうして,子どもも先生も楽しい学校づくりを進め,子ども達の明るい未来を創造するのです。