【第6回】ピア・サポートプログラムを活用した班活動【マルチレベルアプローチ(MLA)実践8年間の記録】

みなさん、こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りしている連載ブログの6回目です。

MLAに出会ってから4年目の春、新1年生の学年主任を務めることになりました。
それまでの3年間で学んできたことを活かす機会が、いよいよやってきたのです。

MLAは、「“つながり”の力で個を育て、そうして育った個が集団を成長させる」ことを目指した生徒指導プログラムです。
学年主任として、MLAのこの考え方に基づいて学年経営を進めていくことに、やる気と期待でいっぱいのスタートだったことは言うまでもありません。

担当した学年は、生徒数約200人、学級数6クラスの学年でした。
この子たちを3年間かけて、個としても集団としてもしっかりと成長させることを心に誓い進めた3年間は、取り組んだ様々な実践面から見ても、いろいろな側面から見た効果においても、みなさんのご参考になることが盛りだくさんです!

今後、このブログでその1つひとつをお伝えしていきますので、どうぞご期待ください☆彡

今回は、そんなMLA理論に基づいた学年経営の中でも、最も効果的で実践の核となった『ピア・サポートプログラムを活用した班活動』についてお話ししていきます。

なぜ、班活動にピア・サポートプログラムを!?

私が所属した学年では「班日直」を採用していて、清掃や給食当番なども班単位で行っていました。
日常生活において毎日ともに活動しているこの5〜6人の班の仲間は、学級・学年の集団づくりの基礎になるものだと思いました。

どうにかこの“班”を、単なる雑用をする小集団(これ、マジでもったいないですよね?)ではなく、MLAの肝である“つながり”の最小単位として機能させたい!!そう考えました。

このとき、“よし!じゃあ、この班活動にピア・サポートプログラムを活用しよう!!”と、すぐにひらめいたわけではありません(そんな天才的な才能はどこにも持ち合わせておりません…)
それは、職員室での偶然の会話からでした。

この年、他校から転勤してきた若い女性の先生がいました。
彼女は、班活動をどのようにしようか悩んでいた私に、前任校で取り組んできた「班活動」について教えてくれました。
その先生によると、前任校では、班活動をとても大切にして集団づくりに活かしていたと言うことでした。
“班活動進め方マニュアル”のようなものまであり、そこには、班長は立候補で選出するとか、班長会議を開いて班メンバーを決めること、またそのためのルールや指導法が具体的かつ明確に示されていました。

一方、MLAを学ぶ中で、ピア・サポートについても研修や学会で、その理論や実践に触れていた私は、
“ピア・サポートはとても大切で効果のあることだが、異学年による年間数回のイベント的な実践が多く、学級・学年の集団づくりにはもうひと工夫いるよなぁ”と思っていました。

この2つの考えが私の中で化学反応を起こし(って、かっこよく言ってみたり笑)「班活動」と「ピア・サポート」が見事にコラボレーションするイメージが出来上がったのです!!

ピア・サポートのサイクルと6週間の班活動

ピア・サポートプログラム(以下、PSP)は、安心、つながり、絆を生み出し、思いやりのある学校風土を作り出すことを目的に、仲間と互いに支え合う実践活動を行うものです。
PSPで特に重要とされるのが、「計画→練習→活動→ふりかえり」のサイクルを繰り返し、より実践力を高めていくこととされています(図1)。

このPSPのサイクルを班活動に当てはめたのが図2です。

①計画(Planning)=班長会議

立候補で決まった班長が集まり、ふりかえりで出た学級の課題やサポートを必要とする仲間のことを考慮しながら、新しい班メンバーと座席を決めていきます。

②練習(Training)=ピア・サポートトレーニング

PSPにおけるトレーニングとして示されているものを中心に、話し方や聞き方のスキルなどのスキルトレーニングを、学年全員を対象に行っていきます。
ここでのトレーニングには、SEL(=Social & Emotional Learning)のプログラムも活用しました。

③活動(Peer Support)=日直・清掃・給食当番や授業、各種行事など学校生活全般

学級における日々の活動や、授業やいろいろな行事など、学校生活におけるほとんどの活動を、班をベースに行います。
行事ごとに班を編成するのではなく、日常の班を活用することで、思いやりや絆が深まり、より支え合える集団となります。

④ふりかえり(Supervision)=6週間のふりかえり班会議

6週間ごとに、日々の班活動から学校生活全般にわたって、自分たちの班の状態をふりかえる班会議を開き、学級全体で共有します。
ふりかえりの時間では、このとき出た班や学級の課題の改善に向けて仲間をリードしてくれる班長の立候補も募ります。

1年間で約5〜6回の班替えを行いながら、毎年クラスは変わります。
3年間にわたって、この①〜④のサイクルを繰り返していくのです。
多くの生徒が班長を経験し、日々かかわりあっていきます。
また、班長以外のメンバーも、そんな班長を支え班に貢献するようになります。
その成果たるや、どれだけ大きなものとなるか想像に難くないと思います。

PSPを活用した班活動の成果

前もって断っておきますが、ここで言う成果は、単に「PSPを活用した班活動」だけの成果ではありません。
MLA理論に基づいて、“つながり”をキーワードとして取り組んだ様々な活動をうまくリンクさせることによって得られた成果だと考えています。

とはいえ、「PSPを活用した班活動」は、3年間の取り組みの核となるものであり、その成果がとても大きなものであったとも言うことができます。

まずとてもわかりやすい成果は、不登校生の少なさです。

200人を超える学年の生徒のうち、中学3年生の1年間で不登校生として計上された(年間30日以上の欠席)は、わずかに2人でした。
つまり全体の1%にも満たなかったということです。

また、やはり中学3年生の1年間では、暴言や暴力、その他のいろいろな問題行動によって、保護者も含めて対応した事例は1件もありませんでした。

不登校やその他の問題行動は、1年時にはいくつもありましたから、この学年の生徒が、特別に素地が良かったというわけではありません。
それは、紛れもなく3年間の取り組みの成果であったと言えると思います。

次回以降は、この「PSPを活用した班活動」をベースとして、その取り組みをより効果的なものにした様々な行事について紹介していきます。

ただ、そのどれもが、どこの学校でも取り組まれているようなものばかりです。
大切なのは、そこにどのようなエッセンスを落とし込んでいったかということです。
その部分をうまくお伝えできればと考えていますので、みなさん、ぜひ今後もお付き合いいただければ幸いです☆彡

(今回は、少々長くなってしまいました…。それも、私自身がこの「PSPを活用した班活動」にどれだけの価値を見出しているかの表れということで、どうぞご容赦ください。)