【第5回】今ある取り組みに理論を当てはめることから【マルチレベルアプローチ(MLA)実践8年間の記録】

みなさん、こんにちは。
『マルチレベルアプローチ(MLA)実践 8年間の記録』と題してお送りしている連載ブログの5回目です。

MLAとの出会いの1年が過ぎ、私は別の学校に転勤することになりました。転勤してもなお、前任校の名田校長先生が目をかけてくださり、総社市の「だれいき研修」や広島で行われた「国際生徒指導シンポジウム」にも参加させていただきました。

研修参加にあたり、現任校の校長先生からは、「学んできたことをうちの学校に還元せぇよ」と言われており、もちろんそれは自分にとっても願ったり叶ったりのことで、すぐに校内研修を企画し、MLAについてみなさんに紹介しました。(この時、研修のために書いた貴重な“秘蔵メモ”(図1)が出てきたので披露しますね)

図1:研修のための秘蔵メモ
図1:研修のための秘蔵メモ 拡大するにはクリック

研修を終え、参加した先生たちからは、一様に肯定的な反応が得られました。しかし…

思うようにMLAの導入が進むことはなく、協同学習を取り入れる先生が出てくることもなく、せいぜい「大事なことやね」と感想を残して去っていく程度でした。

なんせ、マルチレベルアプローチを覚えられず、「マルチなんちゃら」とか「なんちゃらアプローチ」とか言っちゃってるぐらいでしたから。(←なんでやねん!!)

新しい取り組みに対する負担感を感じさせないために

聞き慣れない用語とともに、“新しい取り組みを始める”と聞くと、多くの先生達は、「ただでさえ忙しいのに、これ以上仕事が増えるのは負担だ」とか、「内容的にはおもしろいし、子ども達にとって大事なことだとは思うけど、新しいことを取り入れるより、今やっていることをまずはもっとできるようにしないと」などと感じるようです。たしかに、私自身、MLAについて研修を受け始めた頃は、同じように感じていたかもしれません。

では、こうした状況を乗り越え、より良いものを実践していくにはどうすれば良いのでしょう?

新たに何かを始めるのはしんどい…。
今あることをきっちりやらせることが先決…。

これらの、先生達の言葉にヒントがあると思いました。

つまり、今あることを残しつつ、より効果的なものにするために、MLAの理論でちょこっと味付けをしてやればいいんだと気づいたのです。

班活動とピア・サポートプログラム

MLAの4本の柱(協同学習、ピア・サポート、SEL、PBIS)の中で、私が個人的にとても重要だと考えているのが「ピア・サポートプログラム(以下、PSP)」です。

日本版包括的生徒指導理論としてのMLAでは、2次支援に大きな特長があります。それは、子ども達が、個別支援が中心となる3次支援に陥る前に、2次支援において、リスクを抱えた子どもを子ども達同士のつながりの力で救おうと考えているところです(図2)。

図2:一次的・二次的・三次的生徒指導の概念図
図2:一次的・二次的・三次的生徒指導の概念図

そして、子ども達の中に、このような支え合いやつながりのある人間関係を構築していくことを目指した理論がPSPなのです。

ところで、このような目的を持って取り組まれている学校教育活動はたくさんあると思いませんか?

例えば、遠足、校外学習、運動会、修学旅行、文化祭、球技大会、水泳大会、合唱大会などなど、学校行事の多くが、支え合いや協力のある集団づくりとして位置付けられています。そんな中でも私が目をつけたのが、「班活動」でした。

班活動は、日々の学校生活における清掃や給食当番などで、子ども達が協力しながら主体的に活動していくことを目指しますよね。この班活動に、PSPの理論を当てはめて、より明確な目的を持って班活動を進めていったらどうかと考えたのです。

これは、我ながらナイスアイディアでした!(ちゃっかりピア・サポート学会に論文書いちゃったぐらいです)

なんせ、3年間にわたってPSPのサイクル(図3)をまわし続け、子ども達の中にサポーティブな関係を構築していくのですから、本当につながりが深く助け合いのできる素敵な集団に成長してくれました。

誌面の都合上、PSPを活用した班活動の具体的な話は、次回第6回にてお話しすることにしますね。

その後も続々と!!

“今ある取り組みに理論を当てはめる”というこの考えは、その後も様々な活動に活用していきました。

  • 職場体験にSELを活用して生徒自身が職場発掘
  • 体育大会の応援合戦にPSPを活用して異学年交流
  • 日誌にSELとPBISを活用して主体的に成長
  • 修学旅行ではピアサポーターの生徒が保護者説明会

まだまだあります。そのそれぞれがとても効果的で、子ども達を協力的で主体的で対話的な素晴らしい集団に成長させるものでした!詳しくは、今後のブログで少しずつお伝えしていきますので、どうぞお楽しみに☆彡

とにかく、新しいことを始めるのは難しいとお考えのみなさん、まずは今ある取り組みを理論に基づいて見直し、理論的に整備してやってみてはいかがでしょうか?