「教育を通じて子どもたちに明るい未来を」
-AISESのこのスローガンは日本の子どもだけではなく、世界の子どもたちにも当てはまるものとしてとらえ、いつか、世界の子どもたちの明るい未来づくりに貢献していきたいと考えていました。
今回、その具体化が可能かどうかを探ることを目的に、6月22日〜29日の8日間の日程で、フィリピンのマニラ近郊に第2回目の視察調査に行ってきました。
訪問者は代表理事の栗原慎二、研究協力者の山田洋平先生(島根県立大学准教授)を中心に、教師を目指す2名の大学院生を同行させました。
詳細はまたお話しすることもあるかと思いますが、今回は、同行した二人の大学院生の感想を掲載します。
―その1―
フィリピン視察を終えて
執筆:品川真穂
はじめてのフィリピン
広島大学教育学研究科1年の品川真穂です。
この視察で、私は初めてフィリピンを訪れました。
一歩踏み入れたその足元を見下ろすと、整備されていない土地が広がり、雨が降れば大きな水たまりへと姿を変え、車間のない渋滞で救急車が進みません。
空を見上げると、電線が使われなくなっては追加されることを繰り返し、幾重にも重なりあっています。
あたりを見渡せば万引き防止の金具がまるで檻のような出店が並んでいます。
そのような環境で暮らしている人々が使うトイレには紙がなければ便座もありませんが、困惑していたのは私だけであり、私にとっての非日常はここで暮らす人々の日常なのだと痛感させられました。
8日間という短い滞在期間を過ごした地域はフィリピンのごく一部であり、決してすべてではありませんが、このような地域が現実に存在していることを知りました。
ストリートチルドレン
滞在初日、宿泊させていただいたホテルの付近で買い物を終えると、ストリートチルドレンと呼ばれる家もなく生活している幼い子どもたちが食べ物を求めて両の手の平を差し出してきました。
事前に“ストリートチルドレンがいるところ”と呼ばれているような場所の存在を聞いていた私は、まさかホテルの近くで出会うと考えておらず不意を突かれるとともに、経済格差がこんなにも近く隣接した場所で発生していることに驚きました。
レストランでの食事からの帰路においても、彼らの手の平を何度も見ましたが、その手を握らせてあげることはできません。
ストリートチルドレン生活施設でのミニワークショップ
今回の視察で訪問させていただいた施設の一つは、ストリートチルドレンを救うために立ち上がった施設でした。
そこで生活するストリートチルドレンは親からネグレクトや身体的暴力を受け、親に育てられることが困難になった子どもたちです。
私はその施設で子どもたちに向けた支援を行うことを実現するにあたって、ミニワークショップに参加させていただきました。
これは「今後、AISESが関わるとすれば、このようなミニワークショップを用意して教育的支援を行うことが考えられるが、それが果たして可能であり効果的なのかどうか」を探るためのものでした。
ロールプレイという役割分担をしたアクティビティの中で、泣いている役を演じた私に対して子どもたちに「どう行動するか。」という投げかけがありました。
子どもたちは私に泣いている理由を尋ね、「おもちゃが壊れた。」という返事を聞くと、「一緒に遊ぼう。」、「大丈夫だよ。」、「僕の貸してあげる。」と優しい声をかけてくれました。
また、12歳から施設に入り、現在OJT(On the Job Training)で職業訓練を行っている青年に会わせていただいたのですが、彼は「神様とこの施設があったからここまで来ることができた。」と話していました。
このような困難な状況の中でも、子どもたちが懸命に生きていることに感銘を受けました。
ストリートチルドレンの背景と支援ニーズ
先にも述べたように、この施設で生活する子どもたちは、親に育てられることが困難になっただけでなく、驚くことに施設に来る前までは戸籍に登録さえされていない“生まれていない”子どもたちでした。
そのためか、子どもたちには愛着形成などに課題が見られており、その解決に向けて、愛着形成とレジリエンス形成の支援を行っていこうというのが、今回同行させていただいたプログラムでした。
その中で、課題についてアセスメントを実施し、支援の可能性を考え、プログラムを実践していくという一連の取り組みが形になっているところを間近で拝見することができました。
困難な状況・課題へ理論的な考えを持ち、それに基づく固有の視点から介入していくことの必要性を改めて感じることができました。
終わりに-学び続けることの大切さ
現在、私は広島大学教育学研究科で栗原慎二先生のご指導の元、心理学的な理論を含めさまざまなことを学びながら、AISESやにこにこルーム、放課後等デイサービスで子どもたちとの関わりを持っています。
ある授業で私がした回答に対して「感覚ではなく理論に基づきなさい」と言われたことが栗原先生の元で学びたいと思ったきっかけだったのですが、今回その言葉の意味をまじまじと感じさせられたように思います。
それから2年が立った今では多少なりとも感覚ではなく理論に基づいて子どもに関わることができていると思いますが、困難な状況に理論ベースで切り込んでいく大切さを再確認し、もう一度自分の子どもへの関わりを振り返ることで、よりよい教員を目指して残りの学生生活とそれからの教員生活を送りたいと思っています。
そして、それが子どもたちを救うことに繋がることを心より願っています。
最後になりましたが、本視察と支援を行うにあたって、多くの人にご協力いただきました。このような機会をくださった栗原慎二先生、援助してくださったAISESに大変感謝しております。
ありがとうございました。