ADHD(注意欠如多動性障害)の子供にたいする教師の接し方

執筆:栗原 慎二 教師の接し方 最後に接し方について、ここにあげるものがすべてではありませんが、私なりに重要と思うことをいくつか挙げておきます。 1)「障害であり、そうは簡単には変わらない」と言うことを理解する 「この子 … “ADHD(注意欠如多動性障害)の子供にたいする教師の接し方” の続きを読む

執筆:栗原 慎二

教師の接し方

最後に接し方について、ここにあげるものがすべてではありませんが、私なりに重要と思うことをいくつか挙げておきます。

1)「障害であり、そうは簡単には変わらない」と言うことを理解する

「この子さえちゃんとしてくれれば」という気持ちになるかも知れません。

しかし本人自身が多動性や衝動性、不注意という症状に苦しんでいると言うことを理解することが重要です。ある子どもが友だちを殴ってしまって先生に叱られたとき、泣きながら「僕、悪い子じゃないもん!」とかべに頭を何度も打ち付けていました。

「障害であり、そうは簡単には変わらない」と言うことを理解する

教師は「殴る」という行為をやめさせるために叱るという行動をとったわけですが、効果がなかっただけでなくその子を苦しめてしまっているわけです。

まずは、「障害なのだからそうは簡単に変わらない」と考えることで、教師が自分を責めることをやめましょう。学級経営がうまくても指導力があっても簡単にいかない子どもはいるわけです。また同時に、「そう簡単に変わらない」のだから子どもを責めることもやめましょう。

本人が変われるように、中・長期的な視点でどうすればいいかを考えていきましょう。

2)落ち着くことを優先させる

では、実際に、上述のケースではどうすればいいのでしょうか。

殴ることが悪い行動であることは当然教える必要がありますがそれは本人もわかっているわけです。本当にパニックになっているとき危険な行動をとっているときなどは、体を押さえることが必要な場合もあります。

そういう場合は「静かにしなさい!」{落ち着きなさい!}ではなく、静かな声で「○○君が危ないから押さえているんだよ。

気持ちが落ち着いたら手を離すからね」と同じ言葉を繰り返します。

 十分に落ち着いたタイミングで何が起こったのか、自分が何をしたのか、それによってどんな影響が生じたのか、相手の気持ちはどうだったのか、次にこういうことが起こらないようにするにはどうしたらいいのかなどについて一緒に考えます。

なかなか考えられないことが多いですので助け船を出しながら一緒に考えると言うスタンスが重要です。

また、きちんと謝らせることも大切です。

落ち着くことを優先させる

3)学級経営の中でスモールステップで力をつけさせる

誰にでも苦手なことがありますよね。ADHDの子どもも苦手なことがあるわけです。それを叱っても良い行動は形成されません。この「良い行動を形成する」という発想が重要です。悪い行動を消すのではないのです。

そのためには「良い行動」をスモールステップ化して身につけさせるようにします。教師からみて「このぐらい簡単でしょ」と思うことができないと言うことは、その行動は、簡単そうに見えても当該の子どもにとってはハードルが高いのかも知れません。

机の中がぐちゃぐちゃの子どもがいて何度言っても何年間も改善しません。とすれば、「何度も言う」という指導が間違っているのです。このケースでは、当該の子どもの隣に別の机を置き赤青黄のかごを3つ用意して持ち物すべてに3色のシールを貼り、一日に3回整理をするということを先生と一緒にやりました。

最初は時間もかかりましたが、数ヶ月後には一人でちゃんとできるようになりました。

  1.  課題を明確化し「これができたらいいね」ということを子どもと共有する
  2. スモールステップ化する。

  3. 先生と一緒にやる(モデルを示す)

  4. 練習する

  5. 最初のうちはできるだけにこまめにサポートし、できたら褒める。完全にできなくてもできた部分を褒める。

学級経営の中でスモールステップで力をつけさせる

4)学級を育てる

特別支援教育で重要なことは、当該の子どもを育てることだけではありません。「障害のある人がいるのは当たり前で、その人と共に生きる」ことのできる子どもを育てるが重要です。

それがインクルージョンです。そのために一番重要なのは1)に書いたような教師の姿勢です。

「学級は教師に似る」と言われますが、「いろいろあるけれども当該の子どもを受け入れる」という姿勢をもつ教師の学級では学級の子どももそのようになっていきます。 教師はモデルなのです。そのことを前庭とした上で大切だと思うことは、「当該の子どもの課題克服のプロセスに関与させる」ということです。

ある暴力的な子どもがいました。その子は友だちが大好きなのですが、カッとなるとつい殴ってしまうのです。先生は3)に書いたようにその子と課題を共有し、カッとなったら深呼吸するという練習を始めました。その練習を一緒に何人かの友だちと遣ってもらいました。

友だちがちょっかいをだすと練習にもかかわらずカッとしてしまうその子を見て、友だち達も「この子は本当は仲よく遊びたいんだ。でも、本当にカッとしてしまってどうしようもなくなってしまうんだ」ということに気づいていきました。

 教師が子どもを理解するように、学級の中にも子ども同士の相互理解を作り上げていくということです。

5)予防的取組

日常的に予防的取組を行うことは非常に重要です。AISESが特に推奨しているのは、「肯定的行動介入と支援」(Positive Behavior Intervention and Support, PBIS)と「社会性と情動の学習」(Social and Emotional Learning, SEL)です。

PBISでは望ましい行動を形成しやすくなりますし、SELでは対人関係の前提となる自他の情動の理解や情動の統制、情動の表出が容易になります。これを学級全体で行うことにより、当該児童生徒はもちろんですが、学級全体の他者理解能力や問題解決能力が向上し、特別な支援ニーズをもつ児童生徒の困難さや課題に対して共感的に接することができるようになります。

その上で、支援ニーズの大きい児童生徒に対しては個別のPBISやSELを組み合わせていくとより効果的です。

『AISES 学校教育開発研究所』は子どもと学校の支援、教育に携わる人材育成を行う ことを目的とした団体です。eラーニングや直接研修などを通して、発達障害支援を含む学校教育現場の様々な課題に対応する理論・実践例・教材・教具等を提供します。活動の参加や詳細は、HP https://aises.info/ または☎ 082-211-1030 まで。