フィリピン訪問から 〜愛着を育むために重要なこと〜
執筆:西垣 伸悟(広島大学大学院 教育学研究科)
私は今年の3月まで、精神科病棟内にある院内学級で教員をしていました。
その病院には、様々な事情で学校に通えなくなった子ども達が入院していました。
入院の事情は様々でしたが、多くの子は愛着に課題がありました。
また、その背景には自閉症やADHDなどの発達障害がある場合も少なくありませんでした。
入院してくる多くの子ども達が抱える不安定な愛着を、どのように院内学級で育み、地域の学校へと繋いでいくのか、どのような対策があるのか、そうしたことを考えるためにこの4月より大学院に進学しました。
今回のフィリピン訪問では2箇所の孤児院を訪問しましたが、孤児院にくる子ども達も安定した愛着を育むことができていない子たちがほとんどでした。
愛着の視点から、何か学ぶことがないか、彼らへの接し方に何かヒントを得られないかということを考えながら今回の訪問に同行しました。
ここでは、最初に訪問させて頂いた、ブラカンにある孤児院でのことを書きたいと思います。
この施設で、私ともう1人の院生とで愛着とレジリエンスを育むことを目的としたアクティビティを実践しました。
孤児院の子ども達以外に、他校の生徒も来ており、子どもたちは慣れないメンバーで少し緊張感が高い状態でした。
最初にアイスブレイクをしましたが、なかなか打ち解けることができず、同じ学校の生徒同士で集まろうとします。
その状況のままサークルタイムという活動に移りました。
他校の生徒と混ざり合って5人ほどのグループをつくり、「うれしかったこと・悲しかったこと」を1人ずつ発表し、他の子が質問するというものです。
子ども達の間にまだ緊張が残る中、活動が成立するか少し心配しながら見ていましたが、徐々に雰囲気が打ち解け、活発に会話をしてコミュニケーションをとる姿が見られました。
最終的には、日々の授業の話、練習している楽器の話、そして彼女ができたという話など…いかにも思春期らしい話題で、同年代同士盛り上がり、和やかな雰囲気となりました。
その後の感情の学習では、感情の種類とレベルについて学習し、最後に2人の生徒が自分で選んだ感情にまつわるエピソードをみんなの前で発表しました。
1人の生徒は、12歳のとき親と離れて過ごすことになり、街の市場で2年間1人でストリートチルドレンとして過ごしたことを語りました。
とても、深いレベルでの自己開示だったと思います。
彼が勇気を出して自己開示したことをみんなで拍手をして讃えました。
今回の子ども達の様子を見て、たとえ愛着が傷ついていたとしても、様々な意図的な活動を通して、子ども達の間に育むことができる、という手応えを感じることができました。
1回のアクテビティで子ども達の中に愛着が築かれることは当然ないと思います。
しかし、今回実践したように様々な意図的な活動を通して、安心して自分を表現し、仲間に受け入れてもらえるという下地作りをサポートすることはできます。
言い換えれば、支持的風土を醸成するということです。
子ども達はそうして作られた下地を信じて、自分を表現し、周りに受け入れてもらうという体験を積み重ねることで、安定した愛着が育んでいくのではないかと感じました。
自己開示した彼も、何も下地がない状況であれば、あのような自己開示はできなかったと思います。
不安定な愛着を抱える子どもが安心して自分を表現できる、安全で安心な環境(人間関係)を作る。
それが、愛着を育む支援ではとても重要になるということを感じさせられる訪問となりました。
≪AISESは、フィリピンのストリートチルドレンをはじめ、困難な背景を抱えた子どもたちへの支援活動を行っています≫
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