MLAの全体がキャリア教育
執筆:鈴木建生(ユマニテク短期大学副学長)
「ワサビが目に染みて3日で早期離職」という生徒がいた。
食品加工の優良企業に入社したが、現場作業でワサビの粉が目に染み、目が痛くてどうにもならず、やめてしまった。
問題はやめ方にあった。
本人はそのことを「誰にも言うことができず、我慢していた。」「こんなこと言ったら、馬鹿だと思われる、恥ずかしくて言えなかった」とのことだった。
このケースはキャリア教育のありかたを根本的に見直すきっかけにもなった。
その高校での早期離職のほぼ8割が上司や同僚との人間関係に起因するものだった。
言い換えれば、「コミュニケーション能力」の不足でもある。
それ以降、各学年を通して、ソーシャルスキルトレーニング、インターンシップ、社会人講話などの様々なイベント型キャリア教育プログラムを系統的、計画的に実施していたが、生徒の「生きる力」としての「コミュニケーション能力」を開発していくものといえなかった。
そこには「社会的・職業的自立」を支援するにはその基盤となる「個人的資質」に対する「生徒理解」が不可欠というMLAの視点が欠けていたのである。
「コミュニケーション能力」という「社会的発達」には「自尊感情」など「個人的発達」が不可欠であるということである。
では、どのようにすればそのような資質・能力が開発できるのか。
それがその高校でのキャリア教育の本質的な課題であった。
MLAの実践的理論はその課題解決の道筋を明確に示している。
MLAは生徒の「学業的発達」「キャリア的発達」「社会的発達」「個人的発達」までを視野に入れた,文字通り「包括的」なキャリア教育の実践理論として私はとらえている。
MLAで目指しているのは「心身ともに健康な子どもの育成であり、彼らが平和で民主的な社会を形成できるように育てる」ことである。
それは「児童生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・ 職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう」にするキャリア教育の目的とそのまま重なる。
日常的なキャリア教育としてMLA全体の教育的実践はすこぶる効果的であり、魅力的である。
「個人的発達」として、感情のコントロール・傾聴スキルなどを身につける「SEL」、価値的行動を身につける「PBIS」。
「社会的発達」として、対人関係力と真の学力を身につける「協同学習」、仲間同士、助け合い、励ましあうことを学ぶ「ピア・サポート」。
これら4つはキャリア教育の本質である。
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