執筆:栗原 慎二
最後に,不登校を生まないためにどうすればいいかということについて考えたいと思います。
子どもを全人的に成長させること
第一に、子どもを全人的に成長させること、これが最大の不登校対策です。私は、「学力の高い子どもは基本的に悪い点数を取らない。仮に取ったとしても次の機会にはそれをバネにしてさらに高い点数を取ってくる。同様に、人間的にちゃんと成長している子どもは反社会的行動にせよ非社会的行動にせよ、基本的に問題行動を起こさない。仮に起こしたとしても次の機会にはそれをバネにしてさらに成長していく」といった話を良くします。ですから、1学期から、ソーシャルスキル・対人関係・学業など、様々な観点から開発的な取り組みを総合的に行っていくことが大切です。とりわけ対人関係のベースとなる「情動の教育」(社会性と情動の教育)は今後ますますその重要性を増していくでしょう。こうしたことに児童生徒の実態を踏まえながら計画的に取り組んでいくときに、子どもは全人的に成長し、結果として不登校が生まれにくくなっていくのです。実際,私たちが関わっている街ではそうしたことが現実に起こっています。
アセスメントを定期的に行うこと
第二に、アセスメントを定期的に行うことです。子どもの内的な適応感を観察だけで見抜くのは至難の業です。児童生徒の実態を踏まえた指導や支援はアセスメント抜きには不可能です。適応感を測定する質問紙もいくつか開発されていますから、そういうものを使って6月末ぐらいには子どもの心理状態を把握し、適応感が低い子どもには7月中に集中的に関わり、学校回避感情が低い状態で夏休みに入っていけるようにする必要があります。私が様々な学校と協力して学校改革を行う際には、「アセス」というアンケートを定期的に実施してもらい、子どもたちの危険信号やつまずきをキャッチして指導計画や支援計画を作ってもらっています。
学期終わりと長期休暇中の関わりを大切にすること
第三に、学期の終わりや,休み中の関わりです。私が子どもの頃、担任の先生はよく暑中見舞いを送ってくださいました。プールで一緒に遊んでくれた先生、自宅で花火大会を開いてくださった先生、釣りに連れて行ってくれた先生、宿題勉強会を開いて2時間ぐらい勉強をするとアイスをおごってくれて一緒に遊んでくれた先生もいました。こうした関わりを通じて、友達や先生とのつながりを深め、二学期を楽しみにするようになったのだと思います。今、思えば、本当にいい先生に恵まれて今の自分があるんだなあと思います。
長期休み明けの関わりを大切にすること
第四に、新学期当初や長期休み明けの動きです。学校回避感情を抱えながらもなんとか学校に出てきている子どももいるはずです。そうした子どもを歓迎することで「頑張って学校に出てきて良かった」と思う体験を提供することが必要です。なかには夏休みの宿題が終わらずに学校に来られなくなる子どももいます。そうした子どもを支えることも重要です。欠席している子どもにはもちろん早急な対応が必要です。「しばらく様子を見て」などもってのほかです。
チームで関わること
第五に、それでも不登校を完全になくすことは困難です。かなり深刻な身体的問題、心理的問題、発達的問題、家庭的問題を抱え、学校の先生方だけの努力ではどうにもならない児童生徒が一定数いるからです。こうした子どもたちに対しては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーだけではなく、福祉、医療、司法、行政を巻き込んだ広域の「チーム」を形成しなければならない事例もあります。2学期からの不登校をださないですめばそれに超したことはありませんが、仮にそうした事態が生じたなら、手遅れになる前に、こうした取り組みも視野に入れながら子どもや家庭に関わっていきたいところです。
おわりに―魔法の解決策はないということ―
最後になりましたが、不登校予防に関して決定打となるような「魔法の解決策」など存在しません。子どもたちの変化に敏感に感じ取りながら総合的な取り組みを行っていくことが、唯一の解決策です。
(本稿は,「教育と医学」(2016年9月号)に「二学期の不登校予防」として掲載したものに加筆修正したものです。)