対人関係能力を育てるSEL(社会性と情動の学習)
執筆:山田洋平(島根県立大学人間文化学部准教授)
これまでの生徒指導では,問題行動を起こした児童生徒に「ちゃんとしろ!」と厳しく接することで,学校適応の改善を図ってきた経緯がある。
しかし,そのような指導だけでは,現在の児童生徒に対して十分な学校適応を促すことが難しくなってきている。
それは,地域社会の教育力の低下により,児童生徒がちゃんとした行動,つまり社会に適応した正しい行動を身につける機会が少なくなってきたことが主な原因として挙げられる。
これからの生徒指導では,これまでのちゃんとやることを厳しく要求する指導から,社会に適応した正しい行動のコツを児童生徒に教え支える指導が求められている。
そこで,MLAでは基本プログラムの中に,SEL(Social and Emotional Learning)が位置づけられている。
SELは,「社会性と情動の学習」と呼ばれる対人関係能力を育成する心理教育プログラムである。
SELでは,社会に適応した正しい行動のコツを教えるだけではなく,自他の感情理解や自己の感情コントロールといった感情機能の育成もねらいとしている。
それは社会に適応した正しい行動ができない背景には,感情機能の未熟さとの関連が指摘されているからである。
例えば,“空気が読めず”に状況に適した行動がとれない児童生徒は,他者の感情理解が苦手とされている。
また,衝動的に攻撃してしまう,いわゆる“キレる”児童生徒は,自己の感情理解や感情コントロールが苦手と言われている。
一般的に,感情の理解やコントロールは,行動実行までの3段階の内,第1(入力),第2(処理)段階に位置づけられる機能であり,これらが十分に機能しなければ,最終の出力段階である社会に適応した正しい行動をとることはできない。
こうした感情機能を含む対人関係能力の未熟さの問題は,全ての児童生徒に少なからず共通の課題となっている。
そこで,総社市では,入力段階の「感情の理解」,処理段階の「感情のコントロール」,出力段階の「社会的スキル」(感情の表現を含む)と「問題解決スキル」の4つの単元からSELを構成し,小学校から中学校までの学年ごとに10回の年間計画を立案し,SELの実践を進めている。
さらに,5年前からは幼稚園でもSELを導入し,幼児から中学生までの一貫した対人関係能力育成のための取組を行っている。
現在,日本ではSEL-8Sと呼ばれる日本の教育事情に合わせて開発されたSELプログラム(http://sel8group.jp/)が導入されるなど,SEL実践の広がりを見せている。
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