ハワイの小学校における包括的学校支援 ③
執筆:金山健一(神戸親和女子大学)
6 SEL(社会性と情動の学習)
(1)日本のSEL
日本の学校では、「人の気持ちを考えて行動しなさい」と指導する場面があります。
しかし、そもそも人の気持ちがわからなければ、考えて行動することはできません。
社会的情報処理の過程には、入力➡処理➡出力の3つの段階があります。
日本では、感情の表現(出力)にあたるソーシャルスキルトレーニングが行われてきました。
しかし、感情の理解(入力)のトレーニングが不十分であり、SELが導入されてきた経緯があります。
SELは、具体的には発達段階に応じて、プログラムが開発されています。SELでは以下のことを教えます。
➀ 感情の理解(自分や相手の気持ちがわかるようにする)
② 感情のコントロール(自分の気持ちをコントロールできるようになる)
➂ 感情の表現(日常生活で必要なスキルを身に付ける)。
感情の理解では、状況によって気持ちが異なること、気持ちによって表情やしぐさが異なることを学びます。
小1~小4では、「うれしい」「悲しい」「びっくり」「不安」などをワークシートやロールプレイで学んでいきます。
(2) ハワイのSEL
調査対象小学校のSELを説明するパンフレットには、次のように解説されています。
『社会性と情動の学習には、子供の社会適応力と情動調整力を育てる過程が含まれています。
SELのプログラムは、学習をやりがいのある、魅力的な、有意義なものにする支援的な関係の中で現れるベストな学習を理解することを基礎としています。
社会適応力と情動調整力は良い生徒、市民、労働者に必要不可欠であり、長年に亘る積み重なる努力により社会適応力と情動調整力が育つと、生徒の多くの様々なリスクのある行動(例:薬物使用、暴力、いじめ、中退)を防ぐ、または減らすことができます。
効果的な授業、生徒の授業中または授業以外での建設的な活動、およびプログラムの企画、導入、および評価に両親とコミュニティが深く関わることが最も効果的です。
SELのプログラムは5つの適性項目に着目しています。
➀自己意識、②自己管理、➂社会への意識、④関係性能力、⑤責任ある判断です。』
日本で導入されつつあるSELと、ハワイで実施させているSELでは、対象・目標設定・効果・評価等に差がみられました。
ハワイのSELは、人間教育の基礎基本にSELを位置づけ、大きな視点で捉えていると考えられます。
7 PBIS (ポジティブな行動介入および支援)
(1) 日本のPBIS
日本で導入されてきたPBISは、学校目標・学級目標の具現化を学級経営で実施する実践・研究が報告されています。
例えば、学校目標「しんけんに考え、みんな仲良く、頑張る子ども」という目標に対して、授業中・給食・そうじ・休み時間の場面における具体的な良質な行動を示すといったようなことです。
PBISは問題解決モデルに基づいたもので、適切な行動を教え、強化することを通じて、不適切な行動を予防することを目的としたモデルです。
望まれた行動、何をすることを期待されているかを明確に示して、常に正しい・ポジティブな行動は何かを考えます。
具体的には、➀価値を明確にすること、②価値に基づいた行動を具体化すること、➂良い行動が生起する、仕掛けや場を考えること、④即時に強化することです。
(2)ハワイのPBIS
調査対象校の小学校では、Choose Loveと呼ばれるプログラムを実施し、PBISが柱となっています。
校舎の壁に、Choose Loveの縦横2mほどの大きな掲示物が展示されていました。
そこには4つのPBISの目標である、Gratitude(感謝)、Compassion(思いやり)、Courage(勇気)、Forgiveness(許し)が示されていました。
さらに、各教室には、4つのPBISの目標が掲示されていました。ここでは、Forgivenessのみを示します。
8 まとめ
今回のハワイ調査では、各学校が包括的学校支援プログラムを実施し、予防・開発的な取り組みを実施していることが分かりました。
未だに日本の生徒指導は対症療法が多く、対応に苦慮しています。
日本の学校文化・学校制度にあった包括的学校支援プログラムの導入が必要と痛感しています。
≪AISESは、フィリピンのストリートチルドレンをはじめ、困難な背景を抱えた子どもたちへの支援活動を行っています≫
私たちの活動にご協力いただけませんか