SEL(社会性と情動の学習)について
―より現実的なロールプレイの工夫―
執筆:島根県立大学 山田 洋平
私からは,ハワイ視察を通して,子どもの対人関係能力を育成するSEL(社会性と情動の学習)について,学んだことをお話しします。
まず,ハワイでは,SELがごく自然に行われていました。
例えば,授業の開始場面でリラックス方法を学んだり,ちょっとした時間に「今,どんな気分?」というテーマのサークルタイム(クラス全体の話し合い活動)を行っていました。
こうした場面を見る前に,私はSELの実施頻度を校長先生に質問しました。
すると,「教師によって異なる」という回答をもらいました。
私は、この回答を聞いて「あまり実施していないのでは?」と疑いを持ちました。
しかし,実際に自然な形でSELが実施されているのを見て,当たり前にSELが実施されているので,実施頻度が分からないということがよく分かりました。
日本でもこれほど自然にSELが実施される日が来るようにしたいと強く感じた瞬間でした。
次に学んだことは,ロールプレイのやり方です。
それは,私立学校の小学4年生のSELを視察した時のことでした。
その日は,問題解決学習を行っていました。
テーマは「友だちがしつこくしてきたら,どうする?」という内容でした。
遊んでいるあなたに,友だちが「ねえ,ねえ。」と言いながら,持っている人形であなたの体をしつこくトントンと叩いてくるという場面です。
教師は,その場面を簡単に示した後,子どもたちに解決方法を考えてもらいます。
子どもからは,「立ち去る」,「やめてと言う」,「なんでそんなことするの?と聞く」,「無視をする」などの案が出てきました。
教師は、子どもの意見を賞賛し,ホワイトボードに記録しました。
ここまでで約20分の時間が経過していました。
授業の後半は,ペアで遊ぶ活動でした。
子どもたちはペアになって,絵を書いたり,ブロックで遊んだり,いろいろな遊びをしていました。
一見,授業が終わったと思ってしまいそうですが,この活動には意味があると考えます。
それは,学習した内容を活用する場面の提供です。
ペア活動の中で何かトラブルがあった場合に,先ほどの考え方を用いて問題解決をさせるというねらいです。
しかし,実際には,もう一つのねらいがありました。
ペア活動の最中,教師はおもむろに子ども一人一人に近づいていきました。
そして,子どもの体を教師が持っている人形でトントン叩き始めました。
先ほど学習した場面を再現していたのです。
子どもは,板書内容を確認しながら,しつこくかまってくる友だち役の教師に応対していました。
結局,教師は全員とロールプレイをしました。
これまで私が実践していたロールプレイでは,全て仮想場面でのロールプレイを行っていました。
例えば,「絵を書くフリをしている最中に,しつこくされる」といった場面設定です。
しかし,今回の実践では,絵を書く場面は現実場面になっています。つまり,「実際に絵を書いている最中に,しつこくされる」という体験です。
ハワイでは,日本でのロールプレイよりも,一歩現実味がある活動となっていました。
とても細かいことかもしれませんが,学習したスキルの日常生活での活用を考えると,とても参考になる出来事となりました。