執筆: 髙橋あつ子(2008,3)
ユニバーサルデザインの視点に立った授業づくりとは
学習支援のポイント
自分の授業でどれだけの支援を標準装備しているか、セルフチェックしてみましょう
集団の中の子ども一人一人の学習を保障しようとするとき、教師が子ども集団をどのようにとらえているかが鍵になります。学級内には、学年相応の平均的な能力を持った、これまで教科の専門性の中で培われてきた指導法で目標を達成することができる子どもたちもいますが、このような子どもたちの他に、指導に配慮をすべき子ども、同じ目標を位置付けるのが難しい子どもがいることも事実です。多くの教師は、彼らに対し、「個別に指示を出す」「繰り返し、ゆっくり学ばせる」「(できれば)別の課題を出す」などの対応をとっているでしょう。そして、これらの子どもたちに対する指導を「特別支援教育」と狭義にとらえている人もいるかもしれません。
学級にはもう1つ、同じ目標を達成できる能力を持ちますが、偏りがあるために同じ指導方法では学習が成立しにくい子どもたちもいます。
これらの子どもたちに対し、教科指導で蓄積された指導法と特別支援教育で開発される特性に応じた指導を活用して授業を工夫していくこと、これが「みんなにわかる授業づくり」につながると考えています。
学級の子どもたちはきれいに前述の3つに分かれるわけではありません。個人差はどの教科にもどの活動にも共通して強固なものではなく、ちぐはぐに表れます。もともと多様な子がいることを前提に、多様なアプローチを用意することによって学びにくさ(学びの障壁)をなくし、多様な学びを保障する、これがユニバーサルデザインの視点を取り入れる出発点です。
例えば、右利き用のはさみだけしかないと、左利きの子は苦労します。左利き用のはさみや両利きのはさみがあればイメージ通りの作業ができる子が増えます。
漢字の学習はどうでしょうか。書き取りを重視する教師はたくさんいます。書字が厳しい子にも、書き続ければきれいになると信じて疑わない人もいるようです。フラッシュカードで覚える、パソコンで学ぶ、カードで合成する、書き方を言葉で表現し覚える方法など、多様な学び方を提供しているでしょうか?
ユニバーサルデザインの視点を取り入れるということは、40人の最大公約数をねらう特効薬のような授業技術ではありません。これは学びのユニバーサルデザイン(CAST、2011)に通じます。
多数派によかれと思う指導法を使い、学びえていない残りの数名に個別のオプションを追加すればいいという考え方もあります。しかし、それでは、支援対象者が4、5名いたら負担になるでしょう。また、最初はスペシャルニーズのへの対応と思って取り組んだ支援が、周囲の子どもにも有効なものは少なくありません。
オプションは閉じられた数名に対するものではなく、40人全員に開かれた標準装備にしていくのです。
多様な指導方法は、多様な学習方法を提供することに通じ、子どもは自分に合った方略をチョイスする力を生み、ひいては主体的に自分のために学習者集団の育成につながります。
誰かのための支援ではなく、学習者中心の教室の実現につながるはずなのです。
今、求められるコンピテンシを育てることにもつながり、もはや標準装備であってほしいのです。
CAST(金子晴恵・バーンズ亀山静子訳)(2011)学びのユニバーサルデザインガイドライン全文Version 2.0
具体的な授業の標準装備については次回以降2回に分けてお伝えします。