執筆:栗原 慎二
加害者の特徴
今回は、加害者について考えてみましょう。そしてそこからいじめの対策を考えてみたいと思います。
まず,加害者の友人関係ですが,これについては良好であるという指摘があります(本間、2003)。つまり,仲間内では楽しくやっているということでしょう。では毎日楽しくやっていて幸せか、というとそうではありません。別の研究では,何らかの意味で高いストレス状態にあり、特に教師との関係において不快な経験をしているという指摘や、不機嫌・怒り反応を示す傾向が強いという指摘もあります。これらは,先ほど述べたように加害行動の背後にあると考えて良いでしょう。
また,加害者は相手の感情の理解などについては鈍いと思われがちですが、実際には,相手の認知や感情の理解については優れているという研究があります。これはどういうことかというと、例えば「あいつ,こんな風にいじめたらきっと嫌がるぜ」というように、どのようなことをしたら嫌がるかなど、つまり認知的に相手の感情を予測することについては実は優れているということです。しかし、一方で,被害者の反応に対して悲しみ・恐怖等の感情が生じにくい、つまり相手が悲しんでいても自分は悲しくならず、相手が痛みを感じていても痛みを感じないというような「情動的な共感性の低さ」が特徴として挙げられています。
もうひとつ加害者について押さえておきたいことは,加害者もかつては被害者であった過去を持っていたり、問題解決力が低かったりするという傾向があると言うことです。例えば家庭的に難しい背景をもった子どもが,やり場のないストレス状態に置かれ,しかも友人や教師からのサポートが少ない様態に置かれ,問題に遭遇したときに,適切な解決方法も知らないままに,攻撃行動として表出するがある場合も多いということです。
また,仮に彼らが学校ではどうしていいか分からないような問題児であったとしても,彼らも大切な,愛されるべき存在であるし,育てていかなければならない子どもです。だから,単に被害者を守るのではなく、「いじめ」というものから「加害者」も「被害者」も守るという視点で取り組みを進めていく必要があると考えます。