チームで生徒にかかわる体制づくり

執筆:栗原 慎二   私は、専門的視点からの生徒理解や指導の手立てが必要な生徒に対して、原則として担任・学年主任・相談係の3人でチームを組んで対応するという方法をとってきました。   専門的視点から助言や現状することをコ … “チームで生徒にかかわる体制づくり” の続きを読む

執筆:栗原 慎二

 

私は、専門的視点からの生徒理解や指導の手立てが必要な生徒に対して、原則として担任・学年主任・相談係の3人でチームを組んで対応するという方法をとってきました。

 

専門的視点から助言や現状することをコンサルテーションといます。
コンサルタント(助言する側)には高度な専門性が要求され、コンサルティ(される側)はそのアドバイスに従って行動することになりますが、私は、相談係によるコンサルテーションに多少の疑問を抱くようになりました。
というのは、実際にコンサルタントのような高い専門性を有し、適切な助言ができる相談係がいるのか、教育相談係が上に立つような活動は現実的なのか、同僚に指示や助言することは担任の自尊心を傷つけることにならないのか、担任は本当に自己一致した対応が取れるのか…といった疑問が私の中で大きくなってきたからです。

 

医師や臨床心理士のような専門家ではない教師に、同僚教師へのコンサルテーションができるはずもありません。
むしろ相談係が行うべき援助は、専門家のコンサルテーションとは違うべきではないか、と考えるようになったわけです。

チームで生徒にかかわる体制づくりまた現場では、相談係が生徒を請け負ってしまうケースも多く見られます。
しかし、それでは相談に来ない担任も多いでしょうし、生徒を係任せにしてしまう結果にもなります。
係としても、専任カウンセラーでもないかぎり請け負えるケースには質的にも量的にも限界があります。
とすれば、相談係がケースを請け負うような活動の在り方は、教育相談を組織的に展開するには不適切だろうという思いもありました。そうした試行錯誤の中でたどり着いたのが、事例でのべたような「チーム指導」(チーム支援)だったわけです。

私たちが考えているチーム指導(チーム支援)とは、チーム内での協議によって指導方法を決定する方法です。
担任が中心ではありますが、担任任せでも、請け負いでもなく、チームのメンバーがそれぞれの立場を生かした役割を担います。
最後にチームの指導の概要を整理して、まとめとします。
なお、チーム編成役割などは、校種や学校の実情で大きく変わって当然ですので、これは一つのモデルと思っていただければ幸いです。

<チームの構成と活動内容>

  • ①担任・学年主任・相談係の三名が原則。少ない方が機動性に富み、責任も明確なので現実的で実際的。
  • ②状況に応じて養護教諭などが加わることは当然。
  • ③チームは協議した指導方法に基づき、関係者に協力を依頼する。係は専門機関との連携も視野に入れる。

<活動上の留意点>

  • ①機動性を生かし、チームの打ち合わせは頻繁に行う。
  • ②担任の力量や主体性を生かすことを第一に考える。問題解決の中心的役割は担任が果たすよう配慮する。

<チーム指導の利点>

  • ①生徒の多角的理解とそれぞれの立場を生かした指導が可能。相談係の専門的視点や技量が生かせる。
  • ②学年主任の参加で、担任からの依頼だけでなく、学年主任の判断で指導に入るケースが出てくる。
  • ③ チーム指導が定着するとケースの依頼が早期になり、問題の初期に対応できるようになる。
  • ④学年主任を通じ、学年団等の協力が得やすくなる。
  • ⑤家庭が学校の誠意を感じるためか、協力的になる。
  • ⑥学年主任を通じ、管理職との連携がしやすい。
  • ⑦担任が問題を一人で抱え込む苦悩を軽減できる。
  • ⑧相談係がケースを抱えこまないですむ。
  • ⑨相談係の体験的理解者が増える。

読まれていかがだったでしょうか。
実はこの文章は、20年以上前、当時高校教諭として、試行錯誤しながらチーム支援に取り組んでいた時のものです。
古い実践ですが、今読んでも全く問題はないと思っています。

ただ、20数年前、いじめや不登校という言葉はありましたが、発達障害や学級崩壊という言葉はありませんでした。
虐待も今日のような一般性をもったものではなく特殊な出来事でした。
しかし今日では、子どもたちの問題はどんどん深刻化・複雑化してきています。

今後、こうした状況を受けてSCやSSWが配置され、教師の中から教育相談コーディネーターが指名されるようになるとすれば、それは専門家ではなく、「専門的知識にも精通する同僚」であることが求められると思われます。
ですのでさらに同僚性を高めるとともに、問題に対する心理学的な見方や、心理や福祉にかかわる外部の専門的なサービス等に精通し、必要に応じて提言・提案できるような力を身に付けておくことの両方が求められることになるでしょう。

 

本稿は「栗原慎二 『チームで生徒にかかわる体制作り』ほんの森出版1995年10月号」を要約したものです。なお、チーム支援について詳細に知りたい方は、「マルチレベルアプローチだれもが行きたくなる学校づくり日本版包括的生徒指導の理論と実践」(ほんの森出版)をご覧いただくか、AISESのeラーニングコンテンツ『チーム支援』をご覧ください。

『AISES 学校教育開発研究所』は子どもと学校の支援、教育に携わる人材育成を行う ことを目的とした団体です。eラーニングや直接研修などを通して、発達障害支援を含む学校教育現場の様々な課題に対応する理論・実践例・教材・教具等を提供します。活動の参加や詳細は、HP https://aises.info/ または☎ 082-211-1030 まで。