執筆:堀田 彩
監修:栗原 慎二
■デートDVの実態
<ケース3>
中学生のE恵さんと高校生のF雄さんは交際を始めて1か月です。
ある土曜日、2人はデートをしていました。E恵さんは、いつもに増してやさしく接してくれるF雄さんに対して、これまで以上の好意を感じ、楽しい時間を過ごしていました。そして、そろそろ帰宅しようかというとき、F雄は、「今日は家に誰もいないから、家に遊びにおいでよ」と言い、E恵さんをいきなり抱きすくめました。E恵さんが突然のことに驚いていると、F雄さんは「E恵ちゃんのこと、好きだよ。家に来るくらい、みんなしてることだよ」と言います。
E恵さんは、今日は家に帰りたいと思いましたが、仕方なくF雄の家に寄ることにしました。家に入ると、E恵さんはF雄に同意なく身体を触られるなどしましたが、そのことは恥ずかしくて誰にも話せないと感じています。
<ケース4>
高校3年生のG菜さんとH彦さんは2年間交際し、現在は同じクラスです。
ある日、2人で話をしていたとき、G菜さんは、県外の大学を志望していることをH彦さんに初めて伝えました。するとH彦さんは「おまえ、今の成績でそんな良い大学受かると思ってんの?」とクラス中の人に聞こえる大きな声で言いました。G菜さんは恥ずかしくなって、「受かればいいなって、ただの願望だよ」と笑って言い、H彦も一緒に笑いました。
しかしその後、進路を諦めたくないと思ったG菜さんは、H彦さんに、これから成績をあげるため勉強を頑張りたいこと、そのために一緒にいる時間を少し減らしたいことを伝えました。するとH彦さんは「おまえは、俺と同じ県内の大学に進むと思っていた」と言います。G菜さんが返答に困っていると、H彦さんは「俺に付いてきてくれないわがままな女とは付き合えない」とも言います。G菜さんは、自分のわがままで、H彦と別れたくないと思いました。
<ケース5>
高校1年生のI子さんは、大学生のJ助さんと交際しています。
I子さんは、高価なプレゼントをくれたり車で迎えにきてくれたりするJ助さんのことを魅力的に思っていました。しかし、親が交際を反対していることと、J助さんが服装の好みを押し付けることが嫌になり、別れることにしました。J助さんに別れたいことを伝えると、J助さんは「わかった」と言いました。
しかし、その夜「やっぱり別れない」、「話合おう」とのメールがたくさん送られてきました。I子さんは、何度も「別れる」と言いましたが、J助が受け入れる様子はありませんでした。そして時々帰宅時に、J助さんが待ち伏せするようになりました。I子さんはJ助に何か危害を加えられるのでないかと、怖くなってきました。友人に相談しても「愛されててうらやましい。別れることは考えなおしたら?」と言われます。I子さんは、別れることは諦めて交際を続けた方が良いかもしれないと思うようになってきました。
■デートDVには度合いがある
以上を見て「これもデートDV?」というケースがあったかもしれません。
ここからはデートDVでこれ以下は違う、といった明確な線引きは難しいでしょう。グレーゾーンのような曖昧な、でもデートDVとも言えそうな関係もあるということです。しかし、その度合いがどうであれ、良い関係とは言えないし、今後暴力が酷くなっていく可能性も十分考えられます。
なぜなら、度合いに関わらず、デートDVにつながりやすい要因が背後にあるからです。次は、その要因を紹介します。
前回も述べましたが、<ケース3>や<ケース4>は、日常の学校生活の中でも実際によく怒っていることですが、こうした事例に学校の教員が気付くのは、なかなか困難です。被害者にも加害者にもならないためには人権感覚を育てることが重要であること、そうしたことも含めて予防教育の視点が重要であることがご理解いただけるものと思います。
*ここでの事例は、内閣府(2015)「男女間における暴力に対する調査」をもとにしています。
【執筆者のプロフィール】
堀田 彩:AWARE認定デートDV防止ファシリテーター。