執筆:堀田 彩
監修:栗原 慎二
■なぜ別れない?
第1回では、デートDVについて、暴力の種類やその影響について紹介しました。多くの皆さんは、「暴力を振るう交際相手とはすぐに別れればいい」と思われたのではないでしょうか。
実は、デートDVの関係は辛く苦しいものですが、その関係を断ち切れない、別れられないという場合も少なくありません。内閣府の「男女間における暴力に対する調査」(2015)では、交際相手から被害を受けたことがある人のうち、相手と別れた人が 52.7%とほぼ半数ですが、別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった人が 26.4%、別れたい(別れよう)とは思わなかった人が 20.5%という結果になっています。
なぜ、暴力を振るわれても別れない・別れられないのでしょうか。実は、加害者はいつも暴力を振るっているわけではなく、ときにやさしくしたり暴力を振るっても反省したりというようなことを繰り返していると言われています。
そのような暴力のサイクルの中で、被害者は、「楽しいときもあるから、暴力はがまんすればいい」とか「相手の暴力は自分のせい。自分が変われば相手も変わってくれる」、暴力を振るう交際相手のことを「怒ることもあるけど、本当はやさしい」などと思っている、思わされている場合があります。「別れると言ったら、もっと酷いことをされるかもしれない」という恐怖から別れられないこともあります。
■デートDVの実態
<ケース1>
高校生のA子さんとB男さんは交際しています。
B男さんは、A子さんに頻繁にメールを送り、返信を求めます。A子さんは、最初は「いつも私のことを考えてくれて嬉しい。愛されているんだ」と思っていました。しかし、B男は、A子さんが家で家族と食事をしているときにメールを送り、A子さんがすぐに返信しないと「なぜ返信しないんだ、自分に言えないようなことをしているのか?」と後から責められるようになりました。
うんざりしたA子さんが「無理なものは無理だよっ」と言ったとたん、B男は目の前の机を蹴り飛ばしました。怖くなったA子さんは謝って、B男に返信することを約束しました。すぐに返信したときは、B男は怒らず、楽しいやりとりができます。ですがA子さんは、B男からメールが来ていないかが気になって、勉強や部活動にも集中できないようになってしまいました。
<ケース2>
高校生のC美さんとD夫は交際しています。
D男は音楽の同好会を作るため仲間と頻繁に連絡を取り合っています。ある日、C美と一緒に下校しているときに仲間から携帯にメールがあり、D夫はそれを確認しました。するとC美は、「私と一緒にいるんだから、他の人とメールしないで」と怒ります。D夫は「同好会の仲間からだよ」と言いましたが、C美はD夫に今すぐ仲間からのメールを着信拒否に設定するよう強要しました。C美は「二人の時間を大切にしてくれてありがとう」と笑顔で言います。D夫さんは、C美さんの機嫌も直ったし、仲間の連絡先はまた後で再登録すればいいかと思いました。
しかし、後日、また仲間から連絡があったとき、C美はD夫の手から携帯を奪い取って投げ捨ててしまいました。
こうした事例に学校の教員が気付くのは、なかなか困難です。
日頃の学級経営の中で子供の様子をしっかり観察したり、定期的な相談場面をつかって話を聞いたりすることは重要ですが、実際のところ、そうしたことだけでこうしたことを話してくることは、むしろまれだといってよいでしょう。そうなると、本当に困ったときに相談できるような信頼関係を築いておくこと、校内の相談体制を整えておくことなどが重要になってきます。
予防教育の視点はさらに重要です。
次回【第3回】では、引き続きケースを紹介します。
【執筆者のプロフィール】
堀田 彩:AWARE認定デートDV防止ファシリテーター。