執筆:栗原 慎二
不登校の原因とは?
子ども達はなぜ不登校になるのでしょうか。それは「学校に行きたくない」からです。では、どうして学校に行きたくないという気持ちが生まれるのでしょうか。
文部科学省(2015)は平成18年度に,かつて中学3年生で不登校になっていた方々に対して追跡調査を行いました。その調査では彼ら彼女らに対して不登校になったきっかけを尋ねていますが、教師や友人などとの対人関係でのつまずき、勉強でのつまずき、学校の規則が理解できない、家庭での生活リズムが整っていないなど、様々な要因が挙げられました。 それは、学校生活の中の一部分というよりは、学校生活全体を反映していると言ってもよいような内容でした。子どもたちは「学校生活におけるありとあらゆる要因でつまずく」ことで、「学校に行きたくない気持ちが生まれ」、その結果「不登校になる」と考えられます。
不登校予防には総合的な取り組みが必要
私は現在,ある県と協力して不登校予防の取り組みを進めています。そこでの調査結果は文科省の調査結果を追認するもので、子どもたちが学校に行きたくないと感じる要因は多様であることを示唆するものでした。
このことは,不登校対策は総合的な取り組みでなくてはならないことを示唆しています。なぜなら、不登校になる理由は多様で、一人一人違うからです。別の言い方をすれば、不登校予防の取り組みに決定打となるものは存在せず、多様な取り組みを通じて、その要因の一つ一つを潰していく,あるいは対応していくしかないということです。
以下、調査結果を交えながら不登校予防についてお話を進めていきたいと思います。
「学校に行きたくない」から「行かない」とは限らない?
子どもたちは「学校生活におけるありとあらゆる要素でつまずく」ことで、「学校に行きたくない気持ちが生まれ」、その結果「不登校になる」と先ほど述べました。ただ、この「学校に行きたくない気持ち(以下、学校回避感情)」と,不登校になるという実際の「欠席行動」との間には関連がないとする先行研究もいくつかあります。
そこで、これらの先行研究を精査すると,調査協力者に関して気になるところがありました。それは、調査協力者である子どもたちの中には、楽しく学校に通っている子どもたちも含まれているということです。つまり、楽しく学校に通っている学校回避感情の低い子どもたちが、身体的疾患によって欠席行動をとっているケースが調査の中に入っている可能性があるということです。こういったケースと混じり合うことによって「学校回避感情」と「欠席行動」との間の関連が薄まってしまっているのではないか,その結果,仮に登校を渋っている子どもたちが学校回避感情ゆえに欠席行動を多くとっていたとしても、その結果が見えにくくなっているのではないかと考えました。
そこで、今回の私がA県で行った調査では,分析を「教師が不登校傾向を危惧している子どもたち」に絞り、彼らの「学校回避感情」と「欠席行動」の関連を調べてみました。
第2回目からは,その調査結果を踏まえて,不登校予防について考えていきます。
(本稿は,「教育と医学」(2016年9月号)に「二学期の不登校予防」として掲載したものに加筆修正したものです。)