執筆:栗原 慎二
ADHDの特徴
前回記事「ADHD(注意欠如多動性障害)の子供への誤解と間違った接し方」でみたように、ADHDは「多動性」「衝動性」「不注意」といった特徴がありますが、多動性の高さが目立つ子どもや高いけれども衝動性・不注意はそれほどでもない子ども(多動性優位)や、多動性も衝動性もないけれども、不注意が強く忘れ物が多かったり、ボーとしていることが多いという子ども(不注意優位)もいます。
当然「混合型」の子どももいます。
1)多動性優位型
ちゃんと座っていることができない。
椅子を揺らす。
黙っていることができない。
静かに遊ぶことが難しい体や口の多動と考えるとわかりやすいケースもあります。
2)衝動性優位型
思ったことをすぐ口に出す。授業中の不規則発言。
3)不注意優位型
授業中にボーッとしている。
忘れ物が多い。
ケアレスミスが多い。
順序立てて行動できない。
時間の管理ができない。
逆に何かにはまるとそこから抜け出にくい。など。
頭の中が多動状態になると考えるとわかりやすいケースもあります。
なお、ADHDの子どもはこの3つだけに課題があるのではなく、運動感覚や五感に偏りが見られる子どもが多く、ぶきっちょであったり感覚が過敏だったり逆に鈍感だったりする子どもが多いことも念頭に置き支援に当たる必要があります。
「情報処理のプロセス」「実行機能」という観点から子供を理解する
ADHDの場合は投薬が有効ですが、経験的には薬が合わないことも少なくないようです。一方、自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)の場合は、対症療法的に薬は出されることがありますが、ASDの治療薬自体はまだ開発されていません。
本当に効果的な薬が出てくれば話は変わるのですが、現状では、副作用の問題や効果が限定的だったりすることを考え合わせると、医学的な対応には限界があるということです。また、薬がうまくマッチしたとしても社会性をつける薬があるわけではありませんから、落ち着いた後は「教育」が重要になるわけです。「発達障害に最も効く薬は教育」ということです。
この「どう教育していくのか」という視点から考えるとADHDかどうかが重要ではなく、「子どもが衝動的なのは行動までのプロセスのどこに課題があるのか」ということを見極めることが重要になります。
たとえば、すぐけんかになる子がいたとします。その子は状況への気付き(「符号化」)の力が弱く、色々なことに気が付かず誤解をしているのかもしれません。
また、状況には気付いているのだけれど「解釈」がゆがんでいて、過度に自分のせいにしたり、逆に他人のせいにしたりしているのかもしれません。また、解釈した後は行動の「目標設定」をするわけですが、これまで被害的な体験をしているとみんなと仲良くというよりは自己防衛的な目標設定が行われるかもしれません。また目標は設定したもののどういう行動をすればいいのか(「反応検索))を考える力が弱く、ワンパターンな行動しかできないのかもしれません。
さらに、最終的にはどう行動するかを決める「反応決定」の段階に至りますが、ここまでのプロセスが弱ければ的確な反応決定は難しいです。さらには反応を決定した後は「実行」の段階になりますが、ここでは社会的スキルが必要になります。
ここにあげた6つの段階は社会的情報処理理論という理論に基づくものですがこうした6つの段階のどこに課題があるのかをしっかり観察しながら把握し、弱いところを支援していく必要があります。
こうした複雑なプロセスにかかわる思考や行動を制御するシステムのことを実行機能といいますが、それが弱いとうまく適応的な行動がとれないことになります。ADHDの子どもはこの実行機能に課題があることが分かってきつつあります。また、実行機能のトレーニングについての研究も増えてきています。詳細ははぶきますが、「実行機能はトトレーニングで強化可能」ということです。
次回ではADHDの子供にどのように接していけばよいのかを考えていきましょう。