執筆:栗原 慎二
教師の意識が変わり、クラスの子どもたちの意識も変わって、相互理解の基盤ができあがったうえで、具体的なサポートができます。例えば、クラスの中に、すぐキレてしまう衝動性の高い子がいた場合、こんな実践があります。
ロールプレイ→「よし練習してみよう!」
「キレてしまわない練習」です。クラスの子どもたちに協力してもらって、〝注意する役〟を演じてもらいます。「やめろよ!」「ダメだよ!」「おい、やめろよ」……。3人目ぐらいの子から注意されて、その子がイライラしてくる様子が見えてきたとします。
そこで、先生は「ハイ、深呼吸。もう一度、やってみよう」と声をかけます。 練習をしているうちに、みんなは「そうか、この子は3人目ぐらいでキレてしまうんだな」とわかり、「じゃあ、注意するときは2回までにしておかないといけないな。みんなで何回も注意しないようにしよう」と具体策が見えてきます。
「その子を変えることはできない」という前提のもと、周りが変わるわけです。このロールプレイ(練習)には、なるべく複数人のクラスメートに参加してもらうとよいでしょう。
シミュレーション→「予想される場面の練習をしよう」
全体で行動するときに、何かの拍子にパニック状態になってしまう子。とくに自閉症の子は、見通しが立たなくなるとパニックになります。そこで、全体で行動するとき、静かにしていなければならない場面などを想定して、練習をしてみると効果があります。社会科見学など、具体的に考えやすいシチュエーションがよいでしょう。
「見学の時、係の人が説明をしてくれるのをジッと聞いていられなくなったらどうする?」「駐車場で自分の乗っているバスがわからなくなったらどうする?」など、先に対処法を考えておくと、パニックになることはかなり減ります。
スモールステップ→「少しずつできるようになろう」
「ジャンケン」をするとキレでしまう子がいました。負けると泣いてしまいます。でも、実社会でジャンケンをする機会は案外多く、「できないと困るよね」ということになりました。
そこで、まずは負けないジャンケンをしました。「じゃあ、僕はグーを出すから、パーを出してね」と、決して負けさせない対戦をしばらく繰り返します。
次に手にパペットをはめて、面白い雰囲気を出して、リラックスさせるジャンケンを。こうした訓練での、成功体験の小さな積み重ねで、その子はジャンケンができるようになりました。
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このようなサポートには、時間もパワーも必要です。一人の教師にできることには限界があります。クラスの子どもたち全員に協力してもらう時間もなかなか取れません。
そこで、「何から」「どこまで」関わっていくかの判断基準になるのが、「困り度」「困り感」。その子の背景を理解したうえで、「本人にとって一番困っていることは何か」「どんなことが学級に最も支障をきたしているか」。その度合いを見極めて、着手する内容を決めて取り組みましょう。
この記事は、小学館『小三教育技術』2017年10月号(構成・文/谷口のりこ )をもとに一部修正して掲載しました。