執筆:栗原 慎二
教師は本人の思いを想像して、言語化してあげる役割
「どうしてカッとしてしまうのか」を自分で説明できれば、サポートする手立ても考えられますが、誰もがうまく説明できる(言語化できる)わけではありません。とくに、3年生ぐらいでは言語化できない子も多いでしょう。
何も言わないまま、泣きながら友達に暴力をふるっている子に対しては、理由を想像するしかありません。障害をもっている子の「しんどさ」をどれだけ推察できるか。本人が言葉にできない思いを翻訳してあげる、言語化してあげるのが教師の役割です。 教師に必要なのは「聞く力」だと言われることもありますが、それは聞く相手に「言語化できる能力がある」という前提。
言語化できない子どもに向かい合うとき、「聞く力」より、むしろ「想像する力」や「推測する力」が必要です。そして、理解することが大切になってきます。その子がどうしてそういうことをしているのか。「その子なりの理由が必ずあるはずだ」という前提に立ってください。
「体育の授業に出ない」理由は、「みんなと仲良くしたかったから」
具体例を紹介します。
Aくんは体育の授業には参加しない子でした。当然、クラスの子どもたちは、「あいつ、体育の授業に出なくてズルイ!」と思っていました。ある時、先生がようやくその子の気持ちを聞き出すことに成功しました。それは想像もしてなかった理由でした。
「僕、体育の授業でみんなに負けたくないんだ。例えば、ドッジボールで当てられても外に出たくなくて……。
それなのに、みんなに『出ろよ!なんで出ないんだよ!』って何回も言われると、カッとして、気が付くと友達を殴ってる。でも、殴ると、またみんなに嫌われちゃう。仲良くなれない。だから、僕が友達を殴らないですむように、体育の授業は出ないんだ」そんな理由を想像することができたでしょうか。体育の授業に出ないことは、その子なりのみんなと仲良くするための“努力”だったのです。
それからは、クラスのみんなも「そうだったんだ」と理解。どうしたらいいのだろうと考えました。その結果、「何回も注意するのはやめよう」ということになりました。一人に一回だけに言われるのだったら我慢できる。その1人目は小さい、穏やかな声で注意する。2人目、3人目は言わないようにする、というルールになりました。
クローズドクエスチョンの具体例
質問には大きく分けて、「オープン クエスチョン」と「クローズド クエスチョン」があります。例えば、「どんな気持ちだったの?」など、5W1H で聞き、相手が自由に答える質問が「オープンクエスチョン」ですが、自分の気持ちを言語化できない子にとっては、答えにくい質問形式です。
言語化できない子は「もういい!」「わかんない」と答えるのを放棄してしまうことも。
先生のほうも「せっかく聞いてあげたのに……」と落胆し、支援教育の現場ではうまくいかないことが多くあります。
それに対して、イエスかノーかで答えられるのが、「クローズドクエスチョン」。
イエス・ノーで答えればいいので、心理的な負担も少なくなります。「嫌な気持ちだったの?」「悲しかったの?」と気持ちを聞いてあげれば、「うん」と答えることができます。
もちろん、「うん」と答えられる質問は、想像力を働かせないとできません。
キレる理由は必ずある想像力を駆使しよう
ADHDの子は、じっとしているだけでストレスがたまります。Bくんは新学年の当初は、キレることもなくおとなしくしていました。ところが、ある時の図工の時間に絵の具を使って絵を描いているとき、うまく描けなくて、教室の真ん中に筆洗い用に置かれていたバケツに、パレットを突っ込みバシャバシャ洗い始めました。
そのことを、クラスのみんなから次々に非難されると、バケツを蹴りとばして、「どうせ、俺はダメだ」とわめいて飛び出してしまいました。あとは日々爆発。グチャグチャな毎日に……。教師にとっては、Bくんが普通に授業を受けていて当たり前。「普通に戻さなくては」と思うかもしれませんが、それは違います。
少なくとも、周囲が「普通」と思っている状態でいるために、Bくんは相当なエネルギーを使って、自分をコントロールして努力していたことを想像できなくてはいけません。そして、衝動行動にはその子なりの理由があるはず。理由を話してくれないならさらに想像をめぐらせて、Bくんが答えやすい「クローズド クエスチョン」(前ページ参照)で引き出してください。
家庭環境、親子関係など、見えていない背景も想像する
教師がその子に攻撃されることもあります。暴れるだけでなく、「化粧くさい手で触るなクソババア!」「ブス!」「死ね!」などと言われると、教師と言えども傷つき、腹が立つこともあります。でも、そんな時こそ、想像力を働かせてください。
「この子は小さい時から、親に虐待されたり、罵倒されてきたから、こんな風になったのかもしれない……」。こう思えば、あまり腹も立たなくなります。だからと言って、そんな子の保護者に「ご家庭での教育をもっとしっかりしてください」と一方的に責めるのも、状況推察能力が乏しいと言えます。教師とその子の付き合いは1~2年かもしれませんが、保護者はこれまで何年も苦労してきて、追い詰められているのです。
目の前の状況だけでなく、これまでの親子関係や過去の経緯なども想像できなくてはいけません。
「もう嫌だ!」と自暴自棄になってしまった子にこんな風に質問してみよう
〈具体例〉
〈クローズド クエスチョン〉
「4 月から嫌だった?」「ううん」
「じゃあ、5 月から?」「うん」
「4 月の時、すごく頑張ってたんだね?」「うん」
「全部嫌なの?」「ううん、全部じゃない」
「国語は?」「国語は嫌じゃない」
「そっか、国語は大丈夫なんだね?」「うん」
×オープン クエスチョン
「どうして、そんなことをしたの?」
○クローズド クエスチョン
「友達に迷惑をかけたくなかったのかな?」→「うん。それそれ、そうなんだ」
×オープン クエスチョン
「どうして教室を出て行ったの?」
○クローズド クエスョン
「腹が立つことがあったから出て行ったんだね?」→「うん。みんなで僕が悪いって言ってきた」
※できないことに注目しがちですが、できることに焦点を当てると、そこにヒントがあります。
この記事は、小学館『小三教育技術』2017年10月号(構成・文/谷口のりこ )をもとに一部修正して掲載しました。