文部科学省から「教育相談等に関する調査研究協力者会議」の報告が2017年1月20日に公表されました。この内容には、戦後の生徒指導・教育相談を大きく変革する内容が含まれています。そのうちの特に重要と思われる4点について、コメントをしたいと思います。
まず第一に重要なことは、教育相談における予防教育の重要性に言及したことです。具体的には「不登校、いじめや暴力行為等問題行動、子供の貧困、児童虐待等については、事後の個別事案への対応・支援のみで はなく、未然防止、早期発見、早期支援・対応、さらには、事案が発生した時点から事案の改善・回復、再発防止まで一貫した支援に重点をおいた体制づくりが重要」としました。これはこれまで集団よりは個人、教育よりは心理、開発や予防よりは治療的な方向に偏っていた感のあるSCを中心とした教育相談が、集団も、教育も、開発・予防をも意識したものへと質的に変化していくことを意味します。
第二に、この体制にスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)を常勤化して位置づける必要があることが明言されています。配置される人数や体制の問題はさておき,本当にこれが実現すれば、日本も形の上では香港・台湾・韓国・シンガポール等のアジア諸国にようやく追いつくことになります。
第三に、SCの基礎資格はこれまで臨床心理士だったわけですが、今回、平成30年度から養成がスタートする予定の公認心理師とこれまでSCを担ってきた臨床心理士に加え、教育系心理学諸団体が認定しているガイダンスカウンセラーの資格名が入ったことです。このガイダンスカウンセラー(GC)は日本スクールカウンセリング推進協議会が認定する資格で、日本学校教育相談学会の学校カウンセラーをはじめ、認定カウンセラー、教育カウンセラー、キャリアカウンセラー、学校心理士、臨床発達心理士は、基本的に申請すれば取得可能です。このGCがSCになる道が開かれれば、この資格を取得し、SCに転身することや退職後にSCとして活動することが可能になるということになります。ただし、臨床心理士に負けない専門性がなければ、いずれ叩かれることになるでしょうから、資格に見合う専門性を持つ必要があるでしょう。その専門性は個別臨床そのものではなく,教育を軸としながらも,福祉と心理と特別支援に通じた”ジェネラリストとしての専門性”です。
第四に、教育相談コーディネーターに言及したことです。これが一番大きな変化といってよいと思います。少々長くなりますが、この教育相談コーディネーターについては、「学校全体の児童生徒の状況及び支援の状況を一元的に把握し、学校内及び関係機関等との連絡調整、ケース会議の開催等児童生徒の抱える問題の解決に向けて調整役として活動する教職員を教育相談コーディネーターとして配置・指名し、教育相談コーディネーターを中心とした教育相談体制を構築する必要がある。教育相談コーディネーターの配置・指名には、担当教員を追加で配置するほか、教育相談主任等が担当したり、副校長、教頭及び主幹教諭や養護教諭又は特別支援教育コーディネーターが兼ねたり、複数の教職員がこの役割を担ったりするなど、学校の実情に応じ柔軟な対応が考えられる。いずれにしても、各学校において、教育相談コーディネーターが校内で機能する体制の構築が重要である。また、教育相談コーディネーターは目標と役割分担に基づいて、支援計画の進捗状況を確認し、計画通り進むよう支援を行うことも重要である。したがって、教育相談 コーディネーターに対し、職務を遂行する上での一定の役割を与えることや学校の実情に応じ授業の持ち時間の考慮、学級担任以外の教職員とするなどの配慮も必要である」と書かれています。教育相談担当者が何らかの位置づけを得て、時間的軽減もされて、一元的な情報の中心的機能を果たすことが明言されています。バレーボールでいえばセッター、バスケットでいえばポイントガード、音楽でいえば指揮者の役割を果たすということです。
過去数十年、ここまで突っ込んだ報告はありませんでした。そしてその内容は、私たちが主張してきたことそのものです。次号では、このことを踏まえて、これからの学校教育相談の方向性などについて検討を加えたいと思います。