執筆:栗原 慎二
アセスの特徴の一つとして,個人プロフィールの結果から,家庭の状況を推察できるということがあります。
そこで家庭に何らかの特徴を持った子どもたちをピックアップし,それがアセスにどのように表れるのかをみたいと思います。
<事例の概要>
A子。中3女子。父・母・弟(中1)・本人の4人家族で、母は、躁鬱の診断を受けています。
弟は自閉症の障害があると思われます。
A子が言うには、母は支配的で過干渉で、自分より弟の方がかわいいと思っているとのことでした。
そのため両親は自分のいないところで自分の悪口を言っているのではないかと思い、自宅に録音機を仕掛けたことがあるとのことでした。
経済的にあまり豊かではなく、自宅では自分の部屋がありません。夜は、ずっと家族が起きているから、家族が寝ている朝5時から7時の2時間が、自分がゆっくり落ち着ける唯一の時間と言っていました。
担任は、まじめでおとなしいが、しっかりしている問題のない生徒と思っていました。
この生徒のアセスは以下の通りです。
<解釈>
全体にグラフが非常に小さく、適応状態が悪いことが理解できます。
担任は、「まじめでおとなしいが、しっかりしている問題のない生徒」と思っていたとのことですが、実際には抱えきれないような家庭の問題を背負い、小さく固まって耐えている子どもの姿が浮かびます。
全体に小さいことからエネルギーがほとんどないというか、外に向かわないので、おとなしいと見えるのでしょう。
また、全体に小さい中では非侵害得点と友人サポートがやや数値が高くなっています。
そこから、A子にとっては友人関係が救いとなっている可能性があります。
友人サポートは50に達していませんが、全体のエネルギーの低さに引っ張られているのかもしれません。
また、アセスでは、生活満足感は今の家族関係、向社会的スキルは過去の家族関係の影響を色濃く受ける傾向があるようです。
だとすれば。生活満足感が低いのは今の家庭がA子にとって居場所となっていないこと、
また、向社会的スキルの低さは、こうした状況が昔から続いており、対人関係の力が十分に育っていない可能性を示唆しています。
教師サポートが低いのは、こうした子どもの困り感を教師がキャッチできずにいたため、支援が薄い教師と思われていたのかもしれません。
<支援>
友人関係が救いとなっている可能性があると言うことは、それを壊さずはぐくんでいくことが重要です。
また、録音機を仕掛けたり、親が弟をかわいがっているという表現は、愛着の形成が不十分な可能性を示唆しています。
教師が話し相手になったり、相談に乗ったりすること、また何より信頼できる大人としての役割を果たすことが重要と思われます。
家庭への支援は当然重要ですが、なかなか簡単ではないことが予想されます。
外部機関と連携しながら支援ネットワークを形成して、統一した方針の下で関わっていくことが望ましいでしょう。