執筆:栗原 慎二
アセスの特徴の一つとして,個人プロフィールの結果から,家庭の状況を推察できるということがあります。
そこで家庭に何らかの特徴を持った子どもたちをピックアップし,それがアセスにどのように表れるのかをみたいと思います。
<事例の概要>
B男。中1の男子で、家族は父・母・祖父母・姉(中2)・弟(小3)の7人の大家族です。
小学校からの申し送りに「わがまま」とあり、通常はそういうことは記載されないので、中学校としてはいったいどんな生徒なんだと疑心暗鬼になり、小学校に確認をした生徒です。それによると、小学校時代は学級ではずっと孤立ぎみで、特別支援学級のこどもをいじめたりしたり、弟には暴力的で、通学バスで弟に弱い者いじめをさせることもあったとのことです。
中学校に入ってからの様子も同じような状態です。学力は高いのですが、誰かに教えるというようなことはありません。
本人曰く、「コミュニケーションをとるのは苦手。自分のことを話したくない」と言います。
特別支援学級の生徒の持ち物を隠すなどのちょっとした嫌がらせやいじめをしたこともありました。
生活面では遅刻が非常に多く、係の仕事は自分のことだけで,人を手伝うことや配慮することはありません。
そのため、学級では孤立し、誰も同じ班や隣の席になりたがりません。
父はトラック運転手のため不規則勤務で、自宅にいることも多いのですが、パソコンをずっといじっていて父子の会話はほとんどないようです。
母は保育園に勤務していますが、学校からの連絡を嫌います。
夫婦の会話もあまりないようです。姉はおとなしい生徒で、特に大きな問題はありません。
なお、姉の情報によると、母や非常に厳しく、勉強については特にうるさいということでした。
<解釈>
家庭に問題がある場合は、上下がつぶれる形になることが多いですが、B男もやはりそうです。
現実の人間関係は非常に悪いのですが、非侵害得点が49ぐらいでさほど低くないのは、誰も関わらないのでいじめられることすらないのでしょう。
人間関係のプラス面を示す友人サポートと教師サポートは40前半です。高くはないですが、赤領域やオレンジ領域の40以下ではありません。
それより気になるのは、向社会スキルと生活満足感が30程度だと言うことです。これは本当にB男が苦しんでいることを意味しています。
B男のエピソードをみると、父が自閉的な障害を持っている可能性や、少なくともコミュニケーションが苦手であること、母は厳しく勉強をやることを強要する人であることがわかります。
こうしたエピソードからはB男が情緒的な関わりが全く不十分なまま育ってきてしまっている可能性が浮かんできます。
それはB男が他人と情緒的にどう関わっていいかを知らないことを意味します。
<支援>
非常に難しいです。本人がASDである可能性も否定できません。
そのことがうまくコミュニケ-ションがとれないことの背景にあるのかもしれません。
同様に父母ともにひょっとしたら、何らかの障害を持っている可能性も否定しきれません。
ただ、アセスの結果に「*(アスタリスク)」がないということは、B男はおおむねまじめに回答しているということです。
ということは、教師に対して「自分は人とどう接していいかわからない」「学校も家庭も本当に苦しい」ということを伝え当ている、つまり、教師にSOSを出しているわけです。
教師サポート得点の低さは、その教師に対する役割期待に応えていないからかもしれません。
ですので、B男の行動を修正しようとする前に、まずは、先入観なしにB男の話を聴き、B男のどうしていいのかわからない悩みや家庭での閉塞感、抱えきれない心理的なストレスなどに耳を傾けたいものです。
子ども同士の信頼関係を作ることも大事ですが、その前に、まずは人との信頼関係の構築が重要です。
その最初の人に教師がなるということです。
そこから支援のヒントが見えてくるでしょう。短期的にどうにかできる生徒ではありません。
3年間をかけて、粘り強く支援していくという視点が必要です。
信頼関係が構築できたとき、きっと変化が生じてくるでしょう。