ここでは「包括的反いじめアンケート」の出力結果を例にしながら読み取り方を説明します。
この学校生活・環境多面調査は児童生徒の主観的アンケート結果を反映したものですので、必ずしも事実というわけではなく、あくまで教師が児童生徒の状況を把握するための参考として開発されました。
いじめは誰にでも起きうるもので、いつ起きてもおかしくありません。ですから、我々教師は予防として何ができるのか、今何ができるのか、そのヒントを見出す術として、この分析ツールを活用していただけたらと思います。
ケース#1 一見いじめもなさそうで落ち着いている学級A(小5)
学級Aは38人学級で、小学校5年生にしては落ち着いているクラスでそれほどトラブルもありません。ただ、担任として気になるのは友人関係が狭く、あまり活発ではないことです。個人個人の能力はばらつきが大きく、気になるのはクラスとしての一体感などがないことです。
①いじめの実態を把握する
学級Aについて、出力結果を見ると図7より、いじめ実態は「深刻ないじめ被害者は1名」であり、間接いじめの被害者であることが分かります。また「全くいじめを受けていない児童は35人」ということもわかります。

調査の時期や学年にもよりますが、これまでの研究から全くいじめを受けていない児童が9割を超えているという状態はよい状態です。
ここで、深刻ないじめ被害(週に5回以上)を訴えている児童が1名いるので、その児童を突き止めて支援するのも一つの手です。しかし、間接いじめの被害者ということは、本人の被害感が高い場合や、教師など他者からは気付きにくい場合が多く止めることは難しい場合があります。
そこで、どのような点について支援ができるか見ていく必要があります。これは、被害者個人への支援と、学級全体への支援(教育)という視点で見ていきます。
②学級の状態を把握する

図8を見ると、学級Aは縦に長く分布しているのが分かります(横軸が30から50の幅に収まっているのに対し縦軸は25から60と幅が20と35)。
この結果から、学級の児童同士が支援し合う力を育むことが重要であると言えます。
③成長目標を把握する
図9より、学級Aは対処的能力とサポート、対人的環境が偏差値50%以上の児童がほとんどいない状態ということが分かります。特に対処的能力とサポートについては、偏差値30未満の児童が20%前後います。このことから、問題が起きたらどう対処していいかわからず、周りからのサポートも得にくいと感じている児童が多いことがうかがえます。
①ではいじめが少ないと安心できる結果でしたが、ひとたびいじめが起きると、深刻になるかもしれないことが分かります。そこで、この2つの能力・支援力を高めることを目標にするという方針を立てることが予防につながります。
④取組方針を決める
最後に、具体的にはどのような方策をとると良さそうか図10を見てみます。

図10を見ると、トレーニングと組織が一般よりも低いことが分かります。つまり、児童の感覚として、能力や支援力を高めるトレーニングやかかり活動などは少ないと感じているということです。これらのことから、困ったときに対処する方法を高めるスキルトレーニングをすることが有効かもしれません。また、学級の中には②より個人能力が高い児童もいたので、彼ら彼女らの力が発揮して、③で必要とされているサポートが高まるような他者を支援する係活動などをつくっても良いかもしれません。
ケース#2 落ち着きのない学級B (小4)
2つ目のケースは、なかなか落ち着きのない学級B(30人)です。授業中も誰かがふざけ、それに合わせてざわつくことが多々あります。ケンカなどのトラブルもほぼ毎日数回おきています。
①いじめの実態を把握する
まずはいじめの実態について、児童の認識を確認してみましょう。図11から、加害者よりも被害者が多いこと、間接いじめよりも直接いじめが多いことが分かります。また、全くいじめを受けていない児童は30人中16人と半数しかいません。この結果は、教師が気付いている実態を直接的に示していると言えます。
直接いじめは目につきやすいため、つい厳しく指導して終わりがちですが、その場だけ注意するなどでは、隠れていじめを継続しがちで、間接いじめに移行します。学級Bではまだその段階ではないため、児童がトラブルを解決できるように支援する視点が大事かもしれません。

②学級の状態を把握する
次に、個人の能力や集団の支援力についてみていきます。実際にどのあたりが支援の対象になるかを見てみると図12より、どちらも偏差値40以下で厳しい状況の児童は2名のようです。形は縦に長い縦型ですので、個人の能力にばらつきがみられます。

③成長目標を把握する
具体的にどのあたりを伸ばすとよいか考えるために図13を見てみます。すると、価値観・対人的能力・予防的能力が標準よりも低いことが分かります。
④取組方針を決める
図14から、トレーニング・家庭地域連携・価値の共有の取組が標準よりも低いことがうかがえます。家庭地域連携と価値の共有が低い場合、品格教育など家庭や地域を巻き込んで価値観を育むことが効果的です。また、図13より対人的能力や予防的能力が低かったため、それらを育むトレーニングは児童も望んでいるようです。課題が直接いじめと目に見えやすいものですので、効果も目に見えると思われます。
