2019.9.5~9.9 フィリピン訪問を通じて
執筆:永田 拓也 (広島大学大学院 教育学研究科)
フィリピンのブラカンという地域に,約150人の子どもが入所している孤児院があります。
そこにいる子どもたちは,全員,家族からの虐待やネグレクト,貧困によって捨てられたり,ストリートで暮らしていたりするところを保護された孤児たちです。
今回はそこで働くスタッフや近くの教師,大学の教員の方々に向けた教員研修と中高生に対して心理教育を行いました。
教員研修では,栗原先生(広島大学大学院教授)が講義をされ,多くの人たちが必死にメモを取りながら聞いていました。
また,中高生での心理教育では,情動の交流を中心に活動を行いました。子どもたちも楽しそうに参加していました。そこでとても印象的だった出来事がありました。
それは,ある男の子の自己開示です。
感情にはいろいろな種類やレベルがあることを学習し終わった後に,情動の交流として,うれしかった話や悲しかった話を感情の種類とレベルに基づきながら話す時間がありました。
そこで一人の子どもが,「うれしいレベル2と悲しいレベル2の話をします」と語り始めました。
その内容は,悲しいのは,過去にストリートチルドレンとして2年間過ごしていたとき過酷だった話,そしてうれしかった話は,そうした悲しい出来事がありながらも,こうした施設に入ることができて,いろいろな仲間と出会えたことに対してうれしいと語ったのです。
このような自己開示を前に,言葉を失いました。
日本では考えられない経験を子どものころに経験し,それを乗り越える力が彼には備わっているということを感じました。
それと同時に彼をそう自己開示できることができたのは何だったのかということを考えました。
それは,彼自身の強さだと思います。
その男の子には,困難を乗り越えることのできるレジリエンスがあったのだろうと思います。
日本には,フィリピンとはまた違った困難を経験した子どもたちがいます。
そうした子どもたちにはなくて,フィリピンの子どもたちに備わっているものとは何なのかを考えながら,今回の経験を将来に生かしていきたいと思いました。
僕自身のフィリピンへの訪問は今回で6回目でした。この施設で,こうした取り組みを行うことになったのは,そもそも,去年の6月頃から支援を始めているストリートチルドレンの保護施設での取り組みの成果を確認するために訪問した際の通訳の方からの提案でした。
通訳をしてもらったのは,「レジリエンスと愛着の形成プログラム」の効果検証として,施設のソーシャルワーカーとハウスペアレント,子どもたちのインタビューの通訳でした。
その時のインタビューでのスタッフからのコメントの概要は,ある一定の効果をもたらすコメントでした。
「子どもたちの行動に変化がある」
「子どもたちとのアタッチメントやレジリエンスに向上がみられる」
「子どもだけではなく,スタッフ自身の子どもに対する関わり方も変化した。以前は,仕事としか考えていなかったが,私たち自身が親であるかのように接するようになってきた」。
このような施設の方々からのコメントを日本語に訳してくださいました。
そして,その通訳の方が働いている今回訪問した施設でも,やアタッチメントやレジリエンスといった心理学的なアプローチを伝えてほしいとのことで今回の訪問になりました。
このようにして,去年の6月ごろから支援を始めたものが,少しずつフィリピンに広がっていくことを今回の訪問で感じました。
そして,フィリピンの子どもたちのために教育ができることを,よりエビデンスに基づいた実践になるよう,まずはこの2年間の取り組みをまとめ,今後の改善に生かしていきたいと思います。
≪AISESは、フィリピンのストリートチルドレンをはじめ、困難な背景を抱えた子どもたちへの支援活動を行っています≫
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