シンガポール視察報告④「日本製のノコギリ」

日本製のノコギリ  前回のブログで、シンガポールの教員研修について触れました。年間100時間は正直驚きました。  ただ、教員研修に力を入れているのは、シンガポールだけではありません。アジア諸国の教員の研修時間は日本をはる … “シンガポール視察報告④「日本製のノコギリ」” の続きを読む

日本製のノコギリ

 前回のブログで、シンガポールの教員研修について触れました。年間100時間は正直驚きました。

 ただ、教員研修に力を入れているのは、シンガポールだけではありません。アジア諸国の教員の研修時間は日本をはるかにしのぎます。たとえば隣の韓国は年間60時間です。香港は3年間で150時間ですから年間50時間です。生徒指導主事になると、それ以外に100時間超の専門的な研修を受けます。マカオの研修も実にシステマティックです。台湾についてはシステムが違うので正確な数値はわかりませんが、日本以上の研修が行われているのは確かです。

 日本の教員に義務付けられている研修は、初任者と10年次を除けば、10年ごとに30時間です。これは年間3時間ですから、シンガポールはその33倍です。実際には日本でも義務付けられてはいないものの、校内研修や様々な研修が行われていますので、30倍といった差はないはずです。しかし、それでも50時間とか100時間といった研修量はないですし、内容的に見ても、諸外国の体系的な研修制度と比べると、相当に見劣りするのは否めません。このことが結果として教師自身の専門性の不足と自信の欠如につながっていると考えています。

 実はAISESを立ち上げた背景には、「日本には教員の研修体系が弱い。だから先生方は何をどうやって学んでいいかわからないでいる。そうした先生方を支えるためにも、こうした国々に負けない研修体系を作っていく必要がある」と思ったことがあります。

 このように書いていくと「日本の教員はダメなのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はそうは思っていません。なぜなら、「日本の子供たちの問題行動は、 OECD諸国の中で最低レベル」だからです。実際には世界最下位、つまり「一番よい」のです。それは、日本の教員の提供している教育の質が高いことを意味していると私は考えています。

 しかし、研修量は少ないのになぜ実際の教育の質は高いのでしょう。私は、それは日本の教員の能力の高さと、子どもに対する献身的で協働的な姿勢、そして夜遅くまでの労働(よくないことですが)にあると考えています。そして、それだけの優れたポテンシャルを持った教員が本気で学んでいったとき、労働時間を減らすこともできるだろうし、世界の誰にも負けない教員になれる、世界のどこにも負けない教育が作れる、と考えています。日本製のノコギリは、実は世界一高品質なのです。