フィリピンの教育視察報告 ーその1ー

 

3月26~29日の4日間の日程で、フィリピンのマニラ近郊の視察調査を行ってきました。

その報告をします。

今回の視察の目的は、「貧困がもたらす教育への影響について」、また、「貧困に対して教育は何ができるか」ということについて示唆を得ることでした。

少々報告が遅れましたが、間違った情報を書いてはいけないと思い、今回、同行していただいた酒井先生からのチェックを受けていたためです。

予定より少々遅れましたが、その分、より正確で、詳しい報告になりました。

フィリピンの風景

フィリピンの風景

 

 

さて、今も書きましたが、今回の視察調査には、日本国際飢餓対策機構(JIFH)から現地のNGOであるHands of Love Philippines Foundation Inc(以後、HOLPFI)に出向して運営支援をなさっている酒井さんご夫妻に通訳や視察先のご紹介をしていただきました。

HPの情報ですが、JIFHとは、「飢餓・貧困と闘いながら懸命に生きようとする人々に協力し、飢餓のない世界の実現のために“ハンガーゼロ”運動を推進して、世界にある物心両面の飢餓撲滅に取り組んでいる」団体です。

現地視察をしての実感ですが、現地を知っている人がいない状態で視察をすることは無理だということです。

その点で、今回はフィリピンで10年間支援活動に携わっている酒井さんご夫妻にご支援いただけたことは大変幸運でした。

 

フィリピンの物価について

貧困がテーマですので、通貨について押さえておきます。

フィリピンの通貨はペソと言います。

現在のレートでは、1ペソは約2.2円です。

フィリピンの物価水準を考慮すると1ペソがおおむね10円と考えるとわかりやすいです。

 

たとえばマニラのフードコートで、日本の焼鳥みたいなものが1本で25ペソでした。

約2本分の大きさでしたので、半分と考えると、1本12.5ペソで125円相当ということです。

ちなみに同行してくださったNGOの方は「田舎に行くと、物価も大きく下がって、ミンドロ島ならこの焼鳥は5ペソか10ペソかな」とおっしゃっていました。

感覚的には日本サイズのもので1本25円から50円ということです。

実際には国内産のものは安く輸入品は高いという面もありますので、一律にはいえませんが、おおむねこのぐらいと考えているといいかと思います。

 

フィリピンの国旗と通貨

フィリピンの国旗と通貨

経済状況

次に給与水準ですが、首都マニラでも一般的な労働者の賃金は8000~10000ペソで、日当で400ペソ程度です。

なお政府が決めている非農業従事者の最低賃金はマニラで475ペソ、地方では275ペソですが、実態としては、BBQ売りの人たちの日当は100~150ペソ程度だそうで、現地感覚でも1000円~1500円程度ということになります。

 

教員の給与ですが、今回訪問したPraise Emerald International School(以下、PEIS)は、私立学校で、約1万ペソとのことでした。

日本円にすると2.2万円ですが、物価水準を考慮すると約10万円相当ということになります。

公立学校の教員の給与は最近引き上げられ2万~3万ペソ程度になったとのことです。

公立学校の教師の給与水準はかなり高いですが、それでも日本円にすれば4~7万円、現地感覚でも20~30万円というところです。

 

他の仕事の場合は物価水準を考慮してもとてもその給与でやっていけるとは思えません。

なお、これはマニラ首都圏で、他の地域は3000~6000ペソです。

また、フィリピンの田舎に行くと現在でも文字を持っていない部族がいます。

そうした農村部では現金収入が少なく、自給自足を基本とした生活を送っている少数民族の方々もいるというのが実態です。

 

フィリピンでは所得をA~Eの5層に分けて説明することがあります。

A、Bが富裕層、Cが平均層ですが、あるWebサイトでは、民間調査会社のソーシャル・ウエザー・ステーション(SWS)の2013年調査の結果として、A、B層が1% 、C層が9%で、貧困層のDが60%、最貧層のEが30%となっていました。

つまり9割が日本ではなかなか想像も付かない貧困の中で生活しているということです。

これは実際に私がフィリピンに足を踏み入れて感じる実感と近い数字です。

このことから分かる日本との大きな違いは、経済格差です。

大多数の人たちが貧困層です。

経済自体は順調にGDPを伸ばしているようですが、その富が一部に集中していると言ってよいようです。

「フィリピン人を貧困にしているのは一部のフィリピン人」という言葉があるそうですが、実際にそうなのかもしれません。

 

都市の貧困と田舎の貧困

1)都市の貧困

上のことからもわかるかもしれませんが、都市部の貧困と田舎の貧困は大きく性質が違います。

都市部では生活するのにお金が必要なのですが、それを手に入れることが困難です。

これは都市に限ったことではありませんが、社会保障制度が十分ではありません。

そのため病気にかかったり、高齢になったりするとそれまで何とか生活していた人も一気に貧困に陥ることになります。

フィリピンの人たちは国家や政治に期待できない以上、そういう状況を親族で支え合うことで乗り切ることになります。

そうしたこともあって親族意識が強いのではないかと思ったりしました。

 

いずれにしても所得がなければ生活が成り立たないわけで、その成り立たない水準を割り込む層が非常に多いわけです。

そうした子どもたちや家族は、住む家を失い、ストリートチルドレンやストリートファミリーになっていくと言うことです。

実際にストリートチルドレンになっていく背景は、親になった人たちが十分な教育をうけておらず育児放棄したり、麻薬中毒者で子どもの養育に無関心であったり、親からのDVで家に帰りたくないなど、多様なようです。

いずれにしても、こうした子どもは昼間は物乞いをしたり、信号待ちの車に野生の草を花束にして売ったりしているのですが、お金を渡すことは禁じられています。

というのも、渡した小銭が彼らの手に渡るわけではなく、裏に胴元がいて、そうして集めた小銭を巻き上げているからと言うことでした。

それがどの程度のことかは別として、逃げ道のない厳しい現実がそこにはあります。

当然、こうした水準にある子どもたちは学校どころではありません。

不法占拠者住宅

不法占拠者住宅

 

墓地に住む人たち

2)田舎の貧困

これに対して田舎の貧困は全く違うようです。

田舎の場合は一年中温暖であることも手伝って、たとえ1日1食であったとしても、なんとか死なない程度には食べていけるとのことです。

ただ、現金収入がないのでその自給自足の状態から脱出することはきわめて困難です。

案内をしてくださったNGOの方は、「見えやすいのは都市部の貧困で、それはそれ で深刻だけれども、田舎の貧困はそれとは違う貧困で、どちらがより深刻なのかと言われれば田舎ではないかと思っている」とおっしゃっていました。

ミンドロ島のある部族が、卒業式をするための日よけの屋根を制作することになった際、建物の柱や屋根にする竹や木材は切り出してきたりして何とかできたのですが、建築に使う釘は購入するしかなく300ペソが必要になったそうです。

都市部であれば1日分の日当にも達しない金額ですが、その300ペソを村として用意することができず、今回訪問を支援してくださったNGOが工面して何とか建築にこぎ着けたとのことでした。

 

このように日本とフィリピンの貧困は大きく違います。

社会保障制度が整っている日本においては、絶対的な貧困がないわけではないのですが、それよりは平均的収入の半分以下という相対的貧困が問題として取り上げられることが多いです。

しかし、フィリピンにおける貧困はなんと言っても絶対的貧困の深刻さということです。

 

貧困対策の難しさ

日本の場合は、社会保障制度が一応は整っていますから、主に問題になるのは相対的貧困で、働くチャンスはないわけではありません。

しかしフィリピンでは産業が育っておらず働きたくても働く場が本当にありません。

4年制大学を出ても就職できるのは約半分で、それも学んだ専門性とは無縁のスーパーのレジ係だったりするとのことです。

逆に言えば、スーパーのレジになるには大学卒でなければならないと言うことのようです。

 

政治や経済の話にはあまり深入りしないようにしたいのですが、実際に観てきて感じたことは、極度の経済格差、産業の不足、それに伴う人材の国外流出と貧困といった経済の問題があり、それも一つの背景となって行政や政治の腐敗や犯罪が生じるという問題があるようです。

たとえば警察官が法外な罰金を要求してきたり、タクシーの運転手がやはり法外な料金を請求してきたりといったことは日常的なことのようでした。

蛇足ですが、訪問したNGOでは日本人スタッフだけではなく、フィリピン人スタッフも一般のタクシーは危険だから使っていないとのことでした。

こうした現実は、将来の希望を描きにくくしていると思いました。

現在の大統領がその過激な手法にもかかわらず高い支持率を維持しているのは、貧困、薬物、犯罪、汚職といったフィリピンの抱える根本問題に正面切って取り組んでいることが評価されているのだろうと思います。