執筆:栗原 慎二

 いじめの各段階とその対応について考えてみます。

 

 まず,第一段階は,何も生じていない,安定した時期です。この時期にはアンガーマネジメント、ストレスマネジメントのような問題に焦点化した介入や、より積極的な人間関係の構築を目指すソーシャルスキル教育や構成的グループエンカウンターなどが行われています。最近海外では、ソーシャルスキルだけではなく、自他の感情の理解等にも今まで以上に焦点を当てた「社会性と情動の教育」(Social and Emotional Learning)というのが主流です。これは日本も徐々にそうなっていくものと思われます。AISESではこれが非常に重要だと考えていて、e-ラーニングの中でも取り扱っています。

 

 第二段階は、人をからかったり小馬鹿にしたりするような言動が起こり始め、クラスの雰囲気がなんとなく殺伐としてくる時期です。教師が気付くこともありますが、隠れたところでいじめが起こっていて気がつかないことも十分考えられます。この時期には早期介入が求められます。ピア・サポートプログラムの中で行われるピア・ミディエーションは、主にこの段階で有効です。ミディエーションを子どもたちに教えると、対立が生じるメカニズムや解消の仕方を身につけるので、対立自体が沈静化する傾向があるようです。ただ、この段階の、学級全体に対する介入プログラムはあまりないように思います。

 

 第三段階は、第二段階での介入がうまくいかなかったり、そもそも気が付かずにいたために、状態がエスカレートして、本格的ないじめが起こる段階です。教師が集中的な介入が必要なので、危機介入期と呼ぶことにします。事情を聴取し、文科省が言う「毅然とした対応」が求められるのはこの段階でしょう。ただ、私はこの「毅然とした対応」という言葉に非常に大きな危惧をもっています。というのも、「いじめそのものにしっかりと対応する」という意味での「毅然とした対応」ではなく、「加害者を厳しく罰する」するという意味でこの言葉が使われている場面をよく見るからです。

 

 こうした方法は、実際には、方法は、小中学生に対する手法としては「悪」だと思っています。仮に皆さんが加害者だとしたら、「厳しく罰した担任」や「厳罰に処した学校」を信頼し、その後、気持ちを切り替えて楽しい学校生活を送れますか?「厳しく罰することを容認した友だち」とその後、心を通わせることができますか。

 

 オーストラリアのKen Rigby(2010)といういじめの研究者は、この段階の介入方法として6つのアプローチを上げていますが、上述の方法はその中の「伝統的懲戒的アプローチ」に相当します。この他に日本で採られるアプローチとしては「②被害者の強化」という方法でしょう。しかしこれまあまり有効とは言えません。

 

 では、世界ではどういう方法がとられているのでしょうか。それは、「ミディエーション」「修復的正義」「サポートグループ」「関心共有メソッド」の4つです。「ミディエーション」については、近年、実践も始まりつつありますが、④⑤⑥の方法については、まだあまり知られていません。ただ、④~⑥のアプローチは非常に強力ですのでこれを機会に情報を手に入れられることをお勧めします。ちなみにAISESのe-ラーニングの中では「ミディエーション」「修復的正義」「サポートグループ」については紹介しています。

 

 最後が「事後指導期」です。いじめは実は背景が複雑なことも多いですし、いじめ自体は収まっていても、学級のパワーバランスが崩れていたり、実態に合わせたていねいな指導や支援が求められます。被害者、加害者、学級等に対して、カウンセリングや、個別指導、あるいは学級全体への指導、学級会での話し合いなど、必要な対応をします。

『AISES 学校教育開発研究所』は子どもと学校の支援、教育に携わる人材育成を行う ことを目的とした団体です。eラーニングや直接研修などを通して、発達障害支援を含む学校教育現場の様々な課題に対応する理論・実践例・教材・教具等を提供します。活動の参加や詳細は、HP http://aises.info/ または☎ 082-211-1030 まで。